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コラム 解説

SiCエピタキシー欠陥のSEM観察 (4)
〜 SiCエピタキシー層中のキャロット状欠陥の構造 〜

前回まで エピ層成長中に生成する欠陥やエピ層膜表面で観察される欠陥のSEM像の紹介を行いました。今回”その(4)“でエピ層欠陥のSEM像紹介のシリーズは終了です。今回は、キャロットと呼ばれている特殊な巨大な3次元的な格子欠陥のSEM像の紹介と、キャロットの構造について簡単な紹介を行います。

キャロット

キャロットとは4H-SiCの貫通らせん転位やあるいは貫通混合転位がエピ層成長中に巨大な2つの積層欠陥と複数の部分転位に分解して形成される3次元的なエピ欠陥だと考えられています。光学顕微鏡像ではエピ層表面にニンジンのような像が観察されるのでキャロットと呼ばれています。4H-SiCの貫通らせん転位、貫通混合転位はバーガースベクトルの長さが1nm以上に及び、とても長いので、これらの転位の周りの歪エネルギーは巨大です。この巨大なバーガースベクトルを持つ転位がエピ層成長中にどのように拡張するのかは、格子欠陥の科学の視点からも興味をそそられる話です。この解説では、この3次元的な構造について記述したいと思います。

下記のBenameraさんの論文では、キャロットの微細構造を透過型電子顕微鏡によって観察した結果が示されています。この論文を読んでもキャロットの構造を理解しづらいのですが、今回はキャロットのSEM像を示しつつ、Benameraさんの論文を整理して、キャロットの構造を解説します。

  • M. Benamera et al., Applied Phys. Lett., 86 021905 (2005).

図1 4H-SiCのキャロットのSEM像

図1に典型的なキャロットのSEM像を示します。逆L字状の特徴的なコントラストが観察されます。図2はBenameraさんの論文で紹介されているキャロットの構造を示しています。

図1中のa, b, cの位置は図2のa, b, cの位置に対応しています、図2のA, Bは積層欠陥を示しています。これらの積層欠陥の終端部を”A”, “B”として図1に示しています。図2の下側の基板中に存在している転位“d-o”は貫通らせん転位:バーガースベクトル b=<0001>、あるいは貫通混合転位:b=<0001>+<2110>を示しています。

SiCキャロット状欠陥モデル図
図2

点”o”はエピ層/基板界面近傍に存在しています。点”o”近傍から二つの積層欠陥A とBが生成されています。積層欠陥Bは基底面(0001)面上に載っていて、いわゆるフランク型積層欠陥で、その変位ベクトルはRB= c/4<0001> + a/3<1100>です。部分転位”o-c”のバーガースベクトルは積層欠陥Bの変位ベクトルと関連して= -c/4<0001> –  a/3<1100>になります。転位”o-b”は単なるショックレー型部分転位と考えられています。そのバーガース・ベクトルはb=1/3<1100>です。転位”d-o”が貫通らせん転位の場合は、部分転位”o-c”のバーガース・ベクトルの基底面成分と部分転位”o-b”のバーガース・ベクトルは相殺されているのではと考えられ、貫通転位”d-o”が貫通混合転位の場合は、転位”o-c”のバーガース・ベクトルの基底面成分と転位”o-b”のバーガース・ベクトルの和は、貫通混合転位”d-o”のバーガース・ベクトルの基底面成分と同じになっているのではと推察されます。

積層欠陥Aの変位ベクトルはRA=3c/4<0001>になっていると考えられ、転位”o-a”では3本の部分転位:b=-c/4<0001>により構成されていると考えられます。

積層欠陥Aの変位ベクトルは巨視的に見るとRA=3c/4<0001>ですが、Benameraさんたちの透過型電子顕微鏡高分解能像観察によると、多量のショックレー型部分転位が周期的に縦方向につみ重なっている構造です。微視的に見ると、基底面成分のバーガース・ベクトルを持つショックレー型部分転位が縦方向に並ぶことにより、積層の順番を変え、c軸方向の巨視的な変位ベクトルRA=3c/4<0001>を作り出していると考えられます。積層欠陥Aは巨視的、近似的にはプリズム面(1100)に載っていますが、図1に見られるように実際は曲線状に少し湾曲していて平面ではなく、(1100)面から外れています。また、透過型電子顕微鏡像による微視的構造では多量のショックレー型部分転位が縦方向にジグザグした配置をとっていて、微視的にはプリズム面(1100)には沿っていません。

積層欠陥Aの変位ベクトル;R A=3c/4<0001>はこの積層欠陥全体では大きな変位ですが、積層欠陥Aはc軸方向に周期的な構造を持っていて、周期構造の微視的な構造は、R A =-c/4<0001>の変位と同じ構造を持っているので、見方を変えると微視的には大きな変位というわけではありません。

部分転位”o-a”は鏡像力によってエピ層成長中には成長表面と点oとの最短距離を取ろうとしますが、エピ層のステップフローモード成長により川下側[1120]方向へ少し流されてしまうと考えられ、完全には表面に垂直な状態ではありません。また積層欠陥Aエピ層成長中にビルトインされ、なるべく表面積を小さくするように形成されていると考えられ、巨視的にはプリズム面(1100)に近似的に載っている平面状の欠陥だと考えられます。積層欠陥Aは、多量に導入されるショックレー型部分転位により構成されていますが、この多量のショックレー型部分転位は、歪エネルギーを最小にするためにバーガースベクトルの総和は相殺されるように導入されていると考えることが自然だと思われます。これらの多量のショックレー型部分転位は部分転位”o-a”によってエピ層成長中に次次に成長表面から導入されていると考えられます。

図1は典型的なキャロットの像ですが、図3のような単にすじ状のエピ欠陥もある程度の頻度で観察されます。これは図1や図2で示されているフランク型積層欠陥Bの幅が何らかの理由で小さいのではと推察することは可能かと思います。また図5のような>字型、コ字型のエピ欠陥も観察されることがあります。これもキャロットの何らかの仲間ではと分類しています。

SiCウエハ表面キャロット像
図4
SiCウエハ表面キャロット像
図5

すべての貫通らせん転位や貫通混合転位が拡張を引き起こすわけではありません。エピ層表面の欠陥のSEM像の紹介のシリーズは一応“その4”で終了です。

ご精読ありがとうございました。

(完)(松畑洋文)

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