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コラム 解説

放射光トポグラフ法の利用 (3)
〜 4H-SiCの転位の整理 〜

放射光X線トポグラフ法を用いた格子欠陥の観察や解析についての解説文を書くことが目的なのですが、その前段階として、4H-SiCの中にある転位についての知識を簡単に整理しておきます。前回のその(2)では転位の向きとバーガース・ベクトルについての関係を簡単に説明、整理しました。その(3)では基底面転位のループの構造、Cコア刃状転位、Siコア刃状転位、転位の拡張と部分転位、ショックレー型積層欠陥、貫通らせん転位と関連した転位と積層欠陥についての必要な知識を簡単に整理しておきます。

4H-SiC基底面完全転位のループ

(0001)面上に載っているb=1/3[1120]の閉じた基底面転位ループを図3-1に示します。

図3-1 (0001)面上に載っているループ状基底面転位の構造

蛇足ながら、4H-SiCのウエハでは通常(0001)面は表面から4度程度の角度がつけられて切り出されています。バーガスベクトルの向きは転位ループに沿って保存されていていますが、転位のループの場合、転位の向きはぐるっと360度1回転します。転位の向きは時計回りの方向に設定しています。図のAとCの位置では、転位の向きとバーガース・ベクトルは直交していて、この位置は基底面刃状転位です。また、BとDの位置では、転位の向きとバーガース・ベクトルは、平行か、あるいは反平行になっていて、この位置は基底面らせん転位部です。刃状転位部とらせん転位部の間の位置、つまり、図のAとBの間の部分などは、刃状転位とらせん転位の両方の成分を持っているので基底面混合転位と呼ばれています。同じ基底面刃状転位でもAとCの位置のでは、刃状転位の構造が異なっています。Aの位置では、基底面Cコア刃状転位と名付けられており、Cの位置では、基底面Siコア刃状転位と名付けられています。図3-2にこれらの刃状転位の断面の模式図を示します。

図3-2 (a)基底面Cコア刃状転位[1100]方向から見た模式図。(b)基底面Siコア刃状転位。[1100]方向から見た模式図。図中の黒丸はC原子、白丸はSi原子。両方の図で、転位の向きは紙面に垂直で奥方向に向いている。

図中の黒丸はC原子、白丸はSi原子、図3-2(a)はCコア刃状転位の断面の[1100]方向から見た模式図で転位線の向きは紙面の奥方向つまり[1100]方向、すべり面は(0001)面で、すべり面の下側に余剰な結晶面(extra-half-plane)が存在しています。余剰な結晶面の先端は黒丸のC原子列が紙面の奥方向に連なっていて、刃状転位の中心にC原子が並んでいます。刃状転位の周囲では、結晶の単位胞の体積の収縮と膨張が存在し、余剰な原子面が存在するすべり面の下側では単位胞体積は収縮し、すべり面の上側では体積の膨張が存在しています。図3-2(b)はSiコア刃状転位の断面の[1100]方向から見た模式図で転位線の向きは紙面の奥方向、つまり[1100]方向、すべり面の上側に余剰な結晶面(extra-half-plane)が存在しています。余剰な結晶面の先端は白丸のSi原子列が紙面の奥方向に連なっていて、刃状転位の中心にSi原子が並んでいます。余剰な原子面が存在するすべり面の上側では単位胞体積は収縮し、すべり面の下側では体積は膨張しています。図3-2(a)(b)両方とも上側を[0001]方向に設定し、転位の向きは紙面の奥方向に設定しています。Cコア刃状転位の場合、バーガース・ベクトルは右方向を向き、Siコア転位の場合バーガース・ベクトルは左方向を向いています。また刃状転位の場合、すべり面に垂直方向にも結晶面は変位成分を持っていて、Cコア転位の場合(0001)面は緩やかな下凸の変位、Siコア転位の場合、(0001)面は緩やかな上凸の変位を持っています。後に詳しく述べますが、我々が利用している放射光X線トポグラフ法では、ベルク・バレット法で観察していますが、この方法では、SiコアやCコア刃状転位ではこの(0001)面の凹凸の変位に強く反応していると考えられます。

基底面らせん転位では、弾性体モデルで考える場合、転位の周囲では単位胞の体積の収縮や膨張は存在せず、転位に平行か反平行方向の剪断歪みによる格子変位のみが存在しています。これが、刃状転位の周りの変位とらせん転位の周りの格子の変位の違いです。これらの格子歪みの違いが、放射光ベルク・バレット線トポグラフ法で、異なったコントラストを示すことになります。

図3-2はボールアンドスティックの構造モデルです。このモデルでは、余剰な結晶面の先端にあるC原子やSi原子にはダングリングボンドが存在するということになりますが、実際には転位芯の部分はリコンストラクションを起こしていると考えられ、これらの図のような簡単な芯構造では無いと考えられています。また、実際の4H-SiCの基底面転位は、グライド・セット転位と呼ばれるタイプの転位で、このタイプの転位は小さな積層欠陥を伴った構造を持っていて、やはり図3-2のような単純な芯構造ではないのですが、転位芯の部分以外での周囲の結晶格子の変位は、定性的には図3-2のボールアンドスティックモデルと同じだと考えられています。

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