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コラム 解説

SiCのフランク型積層欠陥 (1)
〜 SiCの掟 〜

4H-SiCのフランク型部分転位、フランク型積層欠陥についての考察への導入

この連載記事は、SiCの格子欠陥の解析評価に興味を持つ人を対象にして書いています。4H-SiCのウエハを放射光X線トポグラフ法で観察すると、ある程度の頻度でフランク型積層欠陥が観察されます。これらの積層欠陥の縁に存在しているフランク型部分転位は大きな格子歪みを伴っています。エピ層を成長させると、この部分転位の表面終端部では表面に凹凸が発生し、4H-SiCパワーデバイス生産の歩留まりを落とす原因にもなります。近年はこれらの欠陥に対策が取られていて歩留まり低下の抑制がある程度、図られています。

フランク型積層欠陥を含む格子欠陥の中で、一番目につくのは、複数枚のショックレー型積層欠陥がフランク型積層欠陥にまとわりついている派手な欠陥です。この欠陥の一部は、顕微PL法で見た時にエピ層中の欠陥が棒状に見えることからバーシェイプ欠陥などと呼ばれたりしていています。また、純粋なフランク型積層欠陥もそれなりの頻度で観察されます。フランク型積層欠陥の複合体や、純粋なフランク型積層欠陥は、大元の基板に内在していたものが、エピ層成長中に拡大成長しているものも観察されますが、エピ層成長中にも新たに発生しているように見えるものもあります。これらの発生原因を系統的に調べる研究は、パワーデバイスの歩留まり向上の観点からは価値があります。しかしながら、エピ層成長に伴うフランク型積層欠陥の形態や密度の変化、発生原因についての研究はあまり行われていないように思います。

この解説記事は、エピ層成長に伴うフランク型積層欠陥の形態や密度がどのように変化するのか、その原因は何か?等についての重要な話ではなく、その前段階の話で、フランク型積層欠陥の構造はどうなっているのか、フランク型部分転位の構造はどうなっているのか、色々な4H-SiCのフランク型積層欠陥をどう整理するのか、について考察することが目的です。なぜか、このような話すら今まで公にあまり話されていません。

10年ほど前のNEDOのSiCプロジェクトでは、ウエハー検査装置を利用して、エピウエハ表面の膨大な数のエピ欠陥を検出し、各種ウエハプロセスやデバイスプロセスの前後での欠陥の増減比較や、デバイスの歩留まりと欠陥の関係などを整理する研究が行われました。SiCの欠陥対策としてbig-dataをAIで整理する研究として、当時としては先行的画期的な一網打尽的研究だと思われます。このようなやり方により欠陥密度の抑制法を見つけ出すことができるかもしれません。現在では発展した形として、1枚のウエハに対して動作原理の異なる各種の欠陥検出装置や各種ウエハ検査装置を用いて膨大なデーターを採取し、それをコンピュータに入力し整理させることは、企業等で行われたりしていると思います。この時に、入力データーの欠陥にタグをつけて整理しているわけですが、AIによる整理はこのタグの付け方と表裏一体です。このタグも自動付与されるわけですが、AIによる現象論的分類によるタグが付けられています。これらのbig-dataを解析する際の現象論的分類と、実態論による分類は一対一対応ではないと思われます。現象論的分類による欠陥の分類は、実態論による分類とは別の空間でなされています。そのような方法で、欠陥密度を下げていければ実利的観点からそれで良いと思われます。

しかしながら、動作原理の異なる各種ウエハ検査装置で、1枚のウエハで検出される各種の欠陥の多量な情報を拾い上げたとしても、それらの動作原理の異なる各種ウエハ検査装置の情報は、それぞれの多量な欠陥について一次独立な情報ではなく、一次従属な場合も多いと考えられます。結局のところAIの力を借りてbig-dataをとり扱っても、入力データーの質が適切でないと何をやっているのかわからなくなるということかもしれません。現象論的分類の精度を上げるために実態論に近いタグを付与すると、AIによる整理も精度が上がるのではと考えられます。現象論的分類と欠陥の実態論による分類とを結びつける研究も重要だと思われます。欠陥の分類評価作業をする研究者が欠陥について熟知していることが必要かと思われます。SiCテクノロジーの分野でのSiCのフランク型積層欠陥の認識をより深めることも重要で、それは、この解説文章の目的でもあります。

このフランク型積層欠陥の連載記事は、「冗長で発散気味な説明をしている割には、結論はたったそれだけ!」と思われるような内容です。「冗長で発散気味な考察なのに、最終的に簡単な結論に収束している!」と善意に解釈していただけるとありがたいです。簡潔な話を好む方は、最終回のまとめの部分のみを見てください。それで充分なようにも思います。また、この連載記事のような煩雑な整理の仕方ではなく、もっとスッキリとした整理の仕方があるよ!という方は是非御助言を下さい。

この連載の解説記事はフランク型積層欠陥とフランク型部分転位の構造について考察することが目的ですが、その準備としてSiCの基底面の積層のルールを整理します。また、許されるショックレー型変位と許されないショックレー型変位のルールも整理します。さらに、このルールの表記方法ついても考察します。今回利用する表記の仕方は、極めて一般的な表記の仕方ですが、この表記の仕方の特徴について整理します。積層のルールは積層の記載方法のルールとも関係しているので、記述の仕方の特徴も記述します。そして、この積層のルールとショックレー型変位のルールは、フランク型積層欠陥の構造のみならず、いろいろな4H-SiCの格子欠陥の積層構造を考察する時に便利に使える思考の道具だと考えます。積層ルール、変位ルールの説明を行った後、ショックレー変位を伴わない欠損した(intrinsic)フランク型積層欠陥の構造について考察します。その後にショックレー変位を伴う欠損した(intrinsic)フランク型積層欠陥、ショックレー変位を伴わない余剰面を含む (extrinsic)フランク型積層欠陥、ショックレー変位を伴う余剰面を含む (extrinsic)フランク型積層欠陥について考察します。ついでに4H-SiCと結晶構造が似ている2H-GaNのフランク型積層欠陥の構造との比較を行います。そして最後にまとめを書きます。

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