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コラム 解説

増殖・成長する積層欠陥とMOSFETの特性劣化 (5)
〜 基底面転位からのショックレー型積層欠陥の湧き出し2 〜

はじめに

4H-SiCのMOSFETのon-offを繰り返していくと発生することがある特性劣化現象に興味を持っている研究者を想定して、この解説の連載を書いています。この現象は特に4H-SiCの格子欠陥と密接な関係にあります。SiCパワーエレクトロニクス研究者にとっては、それなりに興味のある内容だと思われます。

この連載の前回とこの回で、b=±1/3[1120]の短い基底面転位からどのような形状の積層欠陥が湧き出すかの包括的なルールを考察します。そして、それ以外のb=±1/3[1210]、 b=±1/3[2110]の基底面転位についても考察します。

b=+1/3[1120]の基底面混合転位の場合

前回の解説、連載(4)では、基底面完全転位が基底面らせん転位の場合、つまり基底面完全転位の向きとバーガース・ベクトルが平行か反平行の場合について、どのような形状の積層欠陥が成長するのかを整理しました。その後、基底面完全転位が基底面Siコア刃状転位の場合、つまり基底面完全転位の向きとバーガース・ベクトルが垂直な場合について、どのような形状の積層欠陥が湧き出してくるのかを整理しました。

この回では、基底面完全転位が、らせん転位と刃状転位の中間段階の基底面混合転位の場合、どのような形状の積層欠陥がどのように現れるかについて考察、整理します。基底面混合転位の中でも、なおかつ、そのうちの一つの部分転位が、基底面らせん部分転位の場合を例として考察します。基底面らせん部分転位をとり上げる理由は、この転位が積層欠陥の湧き出しに関して臨界的な振る舞いをする基底面部分転位だと考えられるからです。

基底面Siコア部分転位の単純なball and stick modelでは、転位芯部分にダングリングボンドを持つ余剰なSi原子が存在し、Cコア部分転位では転位芯部分にダングリングボンドを持つ余剰なC原子が存在することは既に、連載(1)で説明しました。しかしながら、基底面らせん部分転位ではこれらのダングリングボンドはありません。基底面らせん部分転位では、バーガース・ベクトルは部分転位の向きとは平行か反平行な状態になっています。このベクトルの方向は部分転位の向きに対して右側成分も左側成分も持っていません。

基底面転位の向きとバーガース・ベクトルの関係を図5-1 に示します。この図は基底面部分転位の向きとバーガース・ベクトルがなす角度と基底面転位のコア構造の関係を模式的に示します。転位の向きを設定し、FS/RHの取り決めに従ってバーガース・ベクトルを求めたとします。[0001]方向から見て転位の向きの左側にバーガース・ベクトルの成分があるとSiコア転位です。転位の向きの右側にバーガース・ベクトルの成分があるとCコア転位です。そして転位の向きとバーガース・ベクトルが平行か、反平行の場合は、らせん転位になります。このことから基底面らせん部分転位は臨界的な転位であることがわかります。

前回の連載の議論では、REDG効果によって、Siコア部分転位の場合は、Siコア部分転位からSiコア30度部分転位が現れて、この部分転位が動いて積層欠陥は増殖・成長します、Cコア部分転位からは積層欠陥は湧き出さないことが実験的に観察されます、と書いています。それでは、臨界的な基底面らせん部分転位の場合はどうなのかという話を少し考えます。

図5-1 基底面部分転位の向きとバーガース・ベクトルがなす角度と基底面転位のコア構造の関係。

図5-2は完全転位のバーガース・ベクトルがb=±1/3[1120]のうちの、片側がSiコア60度部分転位あるいはSiコア120度部分転位、もう片側が基底面らせん部分転位を示しています。

図5-2  バーガース・ベクトルb=±1/3[1120]の基底面完全転位で、らせんと刃状の中間の基底面混合転位の例。この図では片側の部分転位はSiコア60度部分転位またはSiコア120度部分転位。もう片側は基底面らせん部分転位。

Iijima さんたちの論文(Iijima et al.;Philos. Mag. 97 (2017), pp. 2736)を見ると、基底面らせん部分転位部からは菱形積層欠陥が成長していない観察例も示されていますが、観察されている例も示されています。ちょっとした角度の変化で菱形積層欠陥は現れるものがあったり、現れなかったりするものがあるかもしれません。また、マクロ的な放射光トポグラフ像などでは直線状の転位でも、透過型電子顕微鏡などで高い分解能で観察するとジグザグしている可能性もあり、この基底面らせん部分転位は、ちょっとしたことで変化する状態だとしておきます。

図5-3(a),(b),(c),(d)はそれぞれ、REDG効果によって、図5-2(a),(b),(c),(d)の基底面混合転位から湧き出してくると推察されるショックレー型積層欠陥の形状。青色の菱形積層欠陥はSiコア60度部分転位から湧き出した積層欠陥。灰色の菱形積層欠陥は基底面らせん部分転位から湧き出した積層欠陥を示す。

これらのことを考慮して、結局Siコア部分転位部は、Siコア30度部分転位が動き菱形積層欠陥は湧き出してくるとみなします。一方で、Cコア部分転位からは積層欠陥の湧き出しはないと考えます。

図5-3では、青色菱形積層欠陥と灰色菱形積層欠陥は同じ大きさのものを描いていますが、2つの部分転位の向きとそれぞれの部分転位のバーガース・ベクトルのなす角度が異なり、非対称なので、積層欠陥の成長状態に違いがあり、2つの積層欠陥は同じ大きさではないことは推察されます。

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