〜 イノベイティブな半導体、エレクトロニクス、エネルギー技術のソルーション 〜

Innovative Semiconductors, Electronics, & Energy Solutions

タグ一覧

コラム 解説

酸化ガリウムパワーデバイスの課題 (4)
〜 p型Ga2O3の回避策:MIS接合 〜

半導体上に絶縁膜、金属電極を積層したMIS接合は、電界集中を緩和するフィールドプレート構造としてパワーデバイスで広く用いられている。空乏層のドナーから出る電気力線は絶縁膜を通り抜けて金属電極の電子が受け止める。電極金属と絶縁体のエネルギー障壁が電流のバリアとなる。この電子障壁は十分に高く、また絶縁膜を厚くすれば耐圧はいくらでも上げられ、p型なしでもなんとかなりそうだが、Ga2O3のような絶縁破壊電界の大きな半導体と絶縁体との組み合わせでは、絶縁体自身の絶縁破壊を考慮しなければならない。絶縁体とGa2O3界面の電界を考えよう。界面に固定電荷が無ければ、界面を挟んだ電束が連続となり、絶縁体とGa2O3の誘電率をそれぞれ εGaOx , εoxとすれば、

εox Eox= εGaOx EGaOx

が成り立ち、酸化膜の電界EoxはGa2O3の電界EGaOxの (εGaOx ox) 倍になる。

Ga2O3といくつかの絶縁体の物性値を下に示す。

 Ga2O3SiO2Al2O3
比誘電率10~123.9~9
絶縁破壊電界> 7MV/cm~10MV/cm~10MVcm

SiO2はSiやSiCデバイスで安定な絶縁膜として広く使われるが、誘電率が小さくGa2O3の1/3でしかない。SiO2/Ga2O3界面でSiO2に加わる電界はGa2O3の約3倍に増倍する。SiO2を使ったMIS構造では、Ga2O3が絶縁破壊を起こすよりも遥かに小さな印加電圧でSiO2が絶縁破壊してしまいGa2O3の高い絶縁破壊電界を生かすことができない。もうひとつの絶縁体として取り上げたAl2O3は、Ga2O3との界面が良好でMOSFETのゲート絶縁膜にも使われている。Al2O3の誘電率はGa2O3と同程度なので、Al2O3/Ga2O3界面のAl2O3に過剰な電界がかからず、金属/Al2O3/Ga2O3接合は、pn接合に代わる耐圧構造として有望である。実際、高耐圧が報告されている縦型Ga2O3デバイスにはAl2O3を絶縁体とするフィールドプレートが使われている。

Ga2O3結晶内部のアバランシェ破壊で決まってくる真の絶縁破壊電界はいまだ測定されていない。最初のコラムで触れたGa2O3の絶縁破壊電界は、耐圧試験でデバイスが破壊された印加電圧から見積った破壊直前のGa2O3にかかっていた電界である。見積り値7MV/cmに、Ga2O3とAl2O3の誘電率比を掛ければ、上表のAl2O3の絶縁破壊電界に近い。フィールドプレートの電界が集中した場所で、金属とGa2O3に挟まれたAl2O3が絶縁破壊し、その結果デバイス破壊に至った、とすると辻褄が合う。

このようにGa2O3パワーデバイスの耐圧がAl2O3の絶縁破壊で決まるのならば、測定された絶縁破壊電界7MV/cmはGa2O3の真の実力ではない。とは言え、SiCやGaNの絶縁破壊電界3MV/cmよりはずっと大きな値である。MIS接合があればSiCやGaNを超える次々世代のGa2O3パワーデバイスが実現できるだろうか。課題を2点あげる。

最初の課題は、絶縁膜の信頼性である。SiO2膜では絶縁破壊電界以下の電界であっても長時間印加すると絶縁破壊を引き起こすTDDBと呼ばれる信頼性課題がある。酸化膜中の欠陥が徐々に拡大してネットワークを形成し、絶縁破壊に至る現象である。SiやSiCパワーデバイスの量産品では、TDDB データに基づき、所望の信頼性を確保すべくSiO2にかかる電界に余裕を持たせている。Ga2O3パワーデバイスでも、Al2O3のTDDBの理解を深め、信頼性を確保できる最大酸化膜電界を把握した上で、耐圧設計することが重要である。

第2は絶縁破壊モードである。MIS界面でひとたび絶縁破壊が起こると、ジュール熱で周囲が破壊されて、デバイスが不可逆的に壊れてしまう。pn接合のアバランシェ降伏であれば、電流変化で絶縁破壊の兆候を検知して保護回路を働かせればデバイスは無事である。量産SiCデバイスでは破壊モードがアバランシェ破壊になるように設計されている。その背景には、イオン注入で不純物分布を比較的自由に作り込めるSiCプロセス技術がある。もうひとつの次世代パワー半導体であるGaNでは、イオン注入がフルに使えないため作り込める構造に制限があり、不可逆な絶縁破壊に長年苦しんできた。近年、研究レベルではあるが、ようやくアバランシェ降伏を再現性よく起こす構造が試作されて、GaNの真の絶縁破壊電界を測定できるようになってきたところである。かくもアバランシェ降伏モード実現は難しい。Ga2O3デバイスで安定したアバランシェ降伏を起こせるようになるまでは、動作回路電圧に対して充分余裕をみた耐圧のGa2O3デバイスを用意せざるを得ないだろう。

The Supercharged Semiconductorと期待されているGa2O3が、その強烈な過給でエンジンを壊すこと無く、サーキットを疾走するためには、過給を受け止める強固なシリンダーブロック、つまり、n型Ga2O3のイオン化ドナーから出る高密度の電気力線を、しっかり受け止める負電荷を用意できる構造を作れるかどうかにかかっている。

(完)(坂本邦博)

コラムの最初に戻る

カテゴリー:

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP