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コラム 解説

増殖・成長する積層欠陥とMOSFETの特性劣化 (3)
〜 基底面転位ループのバリエーション 〜

はじめに

この解説文は、4H-SiCの“順方向特性劣化”に興味を持っている人を対象に書いています。SiCパワーエレクトロニクス研究者にとってはそれなりに興味のある内容だと思われますが、少し細かい話を詳しく解説しています。

前回のその(2)では、4H-SiCのABA’C’積層構造のA’層中にb=1/3[1120], b=1/3[1120]の転位を導入し、さらにそれらが部分転位に分解した際の転位ループの構造を考察しました。この考察により、転位ループのどの部分にSiコア30度や150度部分転位が現れるかが整理できました。今回はまずA’層中のすべり面に他のバーガース・ベクトルを持つ基底面転位の場合、転位ループの構造がどうなっているかを考察し転位ループのどの部分に危険なSiコア部分転位が現れるのかを整理します。その次に、四面体ABA’C’積層構造のA’層以外の他の四面体層のすべり面に転位ループを導入した時の転位ループの構造を考察します。

A’層中の基底面転位ループ

前回の連載(2)の図2-5で示したように4H-SiCの結晶構造には3回の回転軸が存在しています。そこで図2-6で示した2つの基底面転位ループを反時計方向に120度回転させると図3-1が現れます。転位ループの向きを時計回り方向に設定してバーガース・ベクトルを求めるとそれぞれ、(a) b=1/3[2110], (b) b=1/3[2110]の基底面転位ループであることがわかります。連載(2)で述べましたが、回転操作では、転位の向きとバーガース・ベクトルの間の角度の関係は保存されていることが確認されます。A’層中に四面体Cが六角形のリング状に現れている構造です。赤色の部分転位はSiコア30度部分転位、緑色はSiコア刃状転位、青色はSiコア150度部分転位、黒線はCコア部分転位です。黒矢印はバーガース・ベクトルの向きです。転位の向きを白矢印で示します。時計まわり方向に転位の向きを設定しています。転位の向きは転位に沿って変化して行き360度回転します。一方、転位に沿ってバーガース・ベクトルは保存されています。図はREDG効果を引き起こすSiコア30度部分転位、Siコア150度部分転位などがどの部分で現れるかを示しています。この解説のシリーズの後の回で、それぞれの転位のどの部分からどのように積層欠陥が湧き出すのかを考察するときに、これらの図を利用します。

図3-1 A’層中に現れる(a) b=1/3[2110], (b) b=1/3[2110]基底面転位ループの構造。赤線の部分転位はSiコア30度部分転位、緑線はSiコア刃状部分転位、青線はSiコア150度部分転位、黒線はCコア部分転位。白矢印は転位の向き。時計まわり方向に転位の向きを設定している。黒矢印はバーガース・ベクトルの向き。転位に沿ってバーガース・ベクトルの向きは保存される。

図3-1をさらに120度回転させると、図3-2が現れます。これらはA’層中に存在する(a) b=1/3[1210], (b) b=1/3[1210]基底面転位ループの構造を示しています。

図3-2 A’層中に現れる(a) b=1/3[1210], (b) b=1/3[1210]基底面転位ループの構造。

以上はA’層中の基底面転位ループの構造を図示しましたが、次にA層中の基底面転位ループの構造を考察します。

四面体A層中の基底面転位ループ

(1100)面はc映進面です。A’層にc映進操作を行うと、A層になります。A’層中の基底面転位ループにc映進操作を行うとA層中に存在する基底面ループになります。(1100)面についてのc映進操作とは、連載(2)でも説明しましたが、(1100)面で鏡映反転を行って、c軸に沿ってc/2だけ平行移動させる操作です。

図3-3はA’層中に現れる(a) b=1/3[1120]の基底面転位ループを示しています。この転位ループにc映進操作を行った結果、A層中に基底面転位ループ(b)が現れます。転位ループの向きを時計回りに設定してFS/RHの取り決めに従ってバーガース・ベクトルを求めるとb=1/3[1120]になります。(a)のA’層中の基底面転位のバーガース・ベクトルと同じですが、転位ループの構造は異なっています。

図3-3  A’層中に現れる(a) b=1/3[1120]の基底面転位ループにc映進操作を行った結果 A層中に現れる(b) b=1/3[1120]の基底面転位ループ。赤色の部分転位はSiコア30度部分転位、緑色はSiコア刃状部分転位、青色はSiコア150度部分転位、黒線はCコア部分転位。(a)のベージュ色の領域CはA’層中に現れるC-siteの四面体から構成される積層欠陥部分。(b)の明るい緑色の領域B’はA層中に現れるB’-siteの四面体から構成される積層欠陥部分。

図3-3(a)のA’層中の転位ループでは転位の向きがξ=[1120]の部分転位を見ると左側の部分転位klはSiコア30度部分転位、右側の部分転位efはCコア30度部分転位です。また、転位の向きがξ=[1120]の部分の部分転位を見ると左側の部分転位bcはSiコア150度部分転位、右側の部分転位hlはCコア150度部分転位です。転位の向きが、[1120]か[1120]にかかわらず、この図の配置では、左側にSiコア部分転位、右側にCコア部分転位が配置されています。(b)のA層中の転位ループでは転位の向きがξ=[1120]の部分の部分転位を見ると左側の部分転位klはCコア30度部分転位、右側の部分転位efはSiコア30度部分転位になっていて、転位の向きがξ=[1120]の部分の部分転位を見ると左側の部分転位bcはCコア150度部分転位、右側の部分転位hlはSiコア150度部分転位です。(a)(b)では転位ループの内側と外側の部分転位のバーガース・ベクトルが入れ替わっていることがわかります。同じバーガース・ベクトルの基底面転位でも、どの四面体層のすべり面に載っているかによって転位ループの構造が異なることがわかります。またA層中の基底面完全転位が分解するとショックレー型積層欠陥部にはB’-siteの四面体が現れます。図3-3(b)の基底面転位ループではB’-siteの四面体が出現する積層欠陥部分を明るい緑色で示しています。

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