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コラム 解説

4H-SiCパワーデバイスに及ぼす転位の影響 (2)
〜 PN接合への転位の影響2 〜

前回の” 4H-SiCパワーデバイスに及ぼす転位の影響 その1”では、SiCパワーデバイスに影響を及ぼす転位の効果について、MOS構造での絶縁破壊の効果と、PN接合構造を持つデバイスの逆バイアス時のキラー欠陥について過去のプロジェクトの成果を紹介しました。”その2“では、転位密度がPN接合構造を持つデバイスに及ぼす影響と、PN構造を持つデバイスの順方向に電流を流した時に発生する順方向特性劣化の現象について簡単にまとめます。

PN接合の逆バイアス特性に対して転位密度が及ぼす影響について

“その1”では、PN接合構造での逆バイアス時に電流リークを引き起こすキラー欠陥について述べました。この欠陥は比較的低い電圧でリークを引き起こすので目立つ存在と認識されていますが、このキラー欠陥の密度はそれほど高くはありません。電流リークを引き起こす原因はキラー欠陥のみではありません。PN接合の逆バイア時に電流リークへの転位密度の影響を調べることを目的として、上記のキラー欠陥検出と類似な実験が過去に行なわれています。多量のPN接合構造のデバイスを作り、転位密度の低いグループ、転位密度が中くらいのグループ、転位密度が高いグループに分類し、それぞれのPN接合構造の逆バイアス特性を調べています。一見すると整理するのに困ってしまう実験結果が得られます。調査した結果、転位密度が低いものでも簡単に低い電圧で電流リークを引き起こすもの、転位密度が高くても高電圧まで電流リークを引き起こさないものなどさまざまな結果が観察されました。このことより、転位密度とPN接合の逆バイアス時の電流リークを引き起こす電圧とは相関がないように見えます。しかしながら、転位密度の低いグループ、中程度のグループ、高いグループの逆バイアス時の特性を統計的に比較すると、転位密度の高いグループほど電流リーク特性のバラツキが多く、転位密度が低いグループはバラツキが比較的低いことが分かりました。

これらの結果より推察されることは、転位そのものは逆バイアス特性を劣化させる十分条件ではないということです。PN接合構造デバイスの中の転位の大部分は貫通刃状転位と貫通らせん転位、およびらせん転位と通常の貫通刃状転位が合体した混合転位です。これらの貫通転位は実際には蛇行していて、1本の貫通転位のそれぞれ異なる場所で刃状成分が大きくなったり小さくなったりしています。刃状成分が大きいと、“その1”でも述べましたが、不純物原子や空孔を転位が誘引し局所的に微量ながらそれらが濃縮している可能性があります。各貫通転位の蛇行による偶発性が影響していると考えられます。空孔や不純物原子の誘引と局所濃縮が問題を引き起こしていると考えると、貫通転位そのものが直接問題を引き起こしているというより、問題を引き起こす場所を提供し間接的に逆バイアスリーク特性のバラツキに影響を及ぼしていると考えられます。

PN接合での逆バイアス特性のバラツキを抑制し歩留まりを向上させようとする場合、結局のところ、デバイス作製に利用するウエハの転位密度をできるだけ下げたウエハを使うことが解決策と考えられます。

これらの研究は下記の文献に発表されています。

  • R. Kosugi et al., MRS online proceedings, article number:10690721 (2011).
  • N. Kawabata et al., Mat. Sci. Forum., Vo. 858. 384-388, (2016).

PN接合の順バイアス時の特性劣化について

4H-SiCでp-i-n構造を作製し、順方向に電流を流しておくと時間経過とともに抵抗が増大する現象が観察されることがあります。この現象を順方向特性劣化と呼んでいます。p-i-n構造のi層部に基底面転位が存在すると順方向電流により基底面転位を起点としてショックレー型積層欠陥が成長し、このことが順バイアスでの抵抗を増大させる要因であると言われています。順方向に電流を流すとi層部に基底面転位が存在すると転位が電子と正孔の再結合位置となり再結合により放出されるエネルギーによりSiコア基底面30度部分転位が動くと考えられています。この時ショックレー型積層欠陥の面積を増大させるようにSiコア基底面30度部分転位は動きます。順方向特性劣化を引き起こした素子の内部をX線トポグラフ法や顕微フォトルミ装置で観察するとi層中に複数の積層欠陥が巨大に成長していることが確認されます。

p-i-nの構造はエピ層成長によって作製されるのですが、エピ層成長により4H-SiC基板中に存在する基底面転位は貫通刃状転位に変換されているので、順方向特性劣化を引き起こす基底面転位がどこからやって来るのか、どこに存在しているのかが最初不明でした。

X線トポグラフ像や顕微フォトルミ法により観察されたショックレー積層欠陥の形状には一定のパターンが存在し、この形状よりショックレー方積層欠陥を生み出す基底面転位がどこに存在していたのかが解析されました。エピ層成長時に基板の基底面転位は貫通刃状転位に変換されますが、エピ層成長開始直後には変換されず基底面転位が数10ナノメータ程度エピ層中に延伸された後貫通刃状転位に変換されることが報告されており、エピ層中の数10ナノメートルの長さの基底面転位部より数ミリオーダーの長さに及ぶショックレー型積層欠陥が順方向電流により成長することがわかりました。

その後、エピ層成長開始時にまず基板と同程度の濃度のn層の成長を行い、基底面転位を貫通刃状転位への変換を行うのに十分な厚みのn層の成長を行った後i層の成長を行うことで順方向特性劣化を無くすことに成功しています。またこのような順方向特性劣化が問題となるのはMOSFETのbody-diode部です。近年ではMOSFET構造と同時にSBD構造を作りつけてこの問題を解決しています。詳しく知りたい方は下記をご覧ください。

  • A. Tanaka et al., J. Appl. Phys. Vol 119 095711-8 (2016).
  • T. Tawara et al., J. Appl. Phys. Vol. 120 115101 (2016).
  • 松畑、関口 日本結晶学会誌 Vol. 62 150-157 (2020).

(完)(松畑洋文)

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