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コラム 解説

放射光トポグラフ法の利用 (9)
〜 フランク型積層欠陥について 〜

この連載記事は、半導体中の格子欠陥の解析評価に興味を持つ人を対象に連載記事として書いています。前回は、4H-SiC中のショックレー型部分転位と、ショックレー型積層欠陥のコントラストについて記述し、ショックレー型積層欠陥のコントラストルール2π g・R ≠ 2nπ (n= 0, ±1, ±2, ±3, ….) について説明しました。この回は、フランク型積層欠陥とフランク型部分転位の放射光トポグラフ像での見え方について記述します。

図9-1 フランク型積層欠陥の模式図。(a) (0004)面が1枚欠損したフランク型積層欠陥。(b) (0004)面が1枚余剰に挿入されたフランク型積層欠陥。フランク型積層欠陥の縁にはフランク型部分転位がおまけについてきます。

4H-SiC結晶の単位胞は、4層の四面体層の積層により形成されていますが、局所的に、四面体層が1層欠損したり、1層余分に存在したりする格子欠陥をフランク型積層欠陥と呼んでいます。フランク型積層欠陥の縁にはフランク型部分転位がおまけについています。貫通らせん転位が方向を変えて基底面上沿って伸びると、4本のフランク型部分転位b=±c/4[0001]と複数枚のフランク型積層欠陥に拡張します。ショックレー型積層欠陥では変位ベクトルRは基底面に並行に定義されていました。フランク型積層欠陥では、変位ベクトルRは基底面からとび出してc軸方向の成分を持っていいます。フランク型積層欠陥の場合も、2π g・R ≠ 2nπのルールは適応されます。この回では、フランク型積層欠陥のコントラストについても説明しますが、説明の大部分はフランク型積層欠陥の縁についているフランク型部分転位のコントラストについて説明します。長い話をなるべく短くするために、天下り的な解説をし、なるべく理解しやすいように短い簡単な話にします。

R=1/4[0001]のフランク型積層欠陥

図9-2R=c/4[0001]のフランク型部分転位の放射光ベルク・バレットX線トポグラフ像です。図9-2aの図中のABCで示した三角形状の部分がフランク型積層欠陥です。この格子欠陥の模式図を図9-3に示します。この三角形状のフランク型積層欠陥のBC部は表面で終端していて、AB部、AC部にフランク型部分転位が存在しています。顕微PL像でもこの三角形状のフランク型積層欠陥は観察されます。図9-2中の部分転位ABやACは転位に沿って非対称コントラストを示しています。

図9-2a,b,c,dはそれぞれgベクトルを変えて撮影した像です。以前の図4-3,図5-1,図7-1で紹介した基底面転位のらせん転位成分の歪みは、結晶の基底面に投影したgベクトルの向きを逆転させると、それに伴って非対称コントラストの逆転が観察されました。これは基底面らせん転位の歪み成分を含んでいる時の特徴でした。また基底面混合転位の場合もコントラスト逆転は観察されました。しかし、gベクトルを変えても、図9-2の転位に沿った非対称コントラストの逆転は観察されません。gベクトルを色々と変えても、常に三角形の内側が暗いコントラスト、外側が明るいコントラストを示しています。以前に説明した基底面らせん転位の歪み成分とは別物の歪みであることに気がつくと思います。

図9-2  フランク型積層欠陥の放射光ベルク・バレットX線トポグラフ像。gベクトルの向きを変えても非対称コントラストは逆転しない。ABCの部分がフランク型積層欠陥で、この部分では四面体の層が一枚欠損している。フランク型部分転位ABの向きをA→Bと設定すると、この部分転位のバーガース・ベクトルはb=c/4[0001]であることが走査透過型電子顕微鏡観察より調べられています
図9-3観察されたフランク型積層欠陥のモデル図。AB, ACはフランクの部分転位。ABCで示している三角形部がフランク型積層欠陥。この部分では、(0004)面の欠損または余剰が生じています。

転位ABの断面観察試料をFIBで作製して、走査型透過電子顕微鏡のHAADF-STEM像を観察すると、転位ABはフランク型部分転位で、積層欠陥ABCの部分は(0004)面が1枚欠損している、つまりSiを中心に4隅にCを持つ正四面体の層が1層分欠損しているフランク型積層欠陥である事がわかります。転位ABの向きをA→B方向と設定して、HAADF-STEM像観察よりこのフランク型部分転位のバーガース・ベクトルを求めてみます。本連載の“その(2)”の図2-1で説明したやり方で求めるとb=c/4[0001]になります。そして、このフランク型積層欠陥の変位ベクトルはR=c/4[0001]になります。これは、この積層欠陥より下側の結晶が正四面体の1層分の厚みぶん上方向、つまり[0001]方向へシフトさせることによりこの積層欠陥は記述されています。1層分シフトする前に、この正四面体1層分の層は消去しておかねばなりません。

貫通転位の中には、b=±c/4[0001]+a/3<1120>なるバーガース・ベクトルを持つものが報告されています。つまり貫通らせん転位に貫通刃状転位がおまけについてくる場合があります。これらの貫通転位が、転位の向を変えて基底面に沿って走る場合、複数の部分転位に分裂しています。それらの中には、b=±c/4[0001]+a/3<1100>なるバーガース・ベクトルを持つものが含まれていることも考えられます。つまりフランクの部分転位にショックレーの部分転位がおまけについてくる場合です。図9-2のようなフランク型の積層欠陥の縁の部分転位もb=c/4[0001]+1/3<1100>のようにフランクの部分転位にショックレーの部分転位がおまけについているものがあるのかもしれません。図9-2で観察されたフランク型部分転位のバーガース・ベクトルを走査透過型電子顕微鏡で調べた結果、b=-c/4[0001]で、このフランク型積層欠陥にはショックレー型変位成分は付属していませんでした。

我々の放射光ベルク・バレットX線トポグラフ像の観察結果、図9-1のフランク型積層欠陥の変位ベクトルはR=c/4[0001]なのですが、かつての我々の観察では、例えばg=1128, 1128, 1108, 1108….などを流れ作業で行っていました。パワーデバイス作製用に購入したSiCウエハやエピ層の品質を流れ作業でモニターすることがルーティンの作業でした。これらの作業は、フランク型積層欠陥の観察を目的としていたわけではありません。実験に利用した反射の場合は、2πg・R = 4π = 2nπとなって、フランク型積層欠陥のコントラスト消失の条件が当てはまります。我々がかつて設定している条件では、フランク型積層欠陥のコントラストは観察されません。g=1109, g=1109のような反射を使うと、フランク型積層欠陥部分にグレーなコントラストが観察されると思います。

長々と、フランク型積層欠陥の観察結果について説明しましたが、結論を書きますと図9-1のトポグラフ像は、フランク型の部分転位は観察されていますが、フランク型積層欠陥のコントラストは観察されていません。また、変位ベクトルに基底面の成分もないのでショックレー型積層欠陥のコントラストもありません。何、この説明は?と思われるかもしれません。でもフランク型積層欠陥は、どう見えていないか、あるいはどう見えるのかは、ある程度説明できたのではないかと思います。

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