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コラム 解説

SiCのフランク型積層欠陥 (6)
〜 ショックレー変位を伴わない余剰のフランク型積層欠陥 〜

はじめに

この連載記事は、半導体中の格子欠陥の解析評価に興味を持つ人を対象に書いています。前回までは、4H-SiCの結晶で欠損したフランク型積層欠陥の場合について考察しました。今回は、四面体層が1層、余剰に結晶中に挿入されたフランク型積層欠陥について考察します。最初に、積層欠陥の縁にあるショックレー型部分転位のバーガース・ベクトルがショックレー変位成分を持たないフランク型積層欠陥について考察します。

ショックレー変位を伴わない余剰フランク型積層欠陥のモデルの作成の仕方について考えます。図6-1に作り方の説明図を示します。

図6-1 ショックレー変位を伴わない余剰フランク型積層欠陥のモデルの作製の仕方。(a)結晶に切れ込みを入れて四面体余剰層を1枚挿入し、その挿入層の直上の層のみにショックレー変位を加えて作るやり方。(b)挿入層の直下の層のみにショックレー変位を与えるやり方。

図6-1(a)では、欠陥の無い4H-SiCの完全結晶に切れ込みを入れて、四面体層を新たに1層挿入します。このとき、この余剰な四面体層は、この層の下側の層と整合するように挿入します。そうすると、この余剰な四面体層とその直上の四面体層は繋げる事はできません。その理由は、連載”その(3)”の図3-2で示したように、この挿入された四面体層の上側のC原子の(x,y)平面位置が、この挿入層直上の四面体層の底面のC原子位置とは異なっていて、整合しません。そこで、直上の四面体層1層のみにショックレー変位を与えて挿入層と整合させ、フランク型積層欠陥を完成させます。図6-1(b)では、同様に四面体層を新たに1層挿入します。このとき、挿入された四面体層は、この層の上の層と整合するように挿入します。そうすると、この余剰層の下側の四面体層とは整合して繋げることができません。そこで、挿入層直下の四面体層1層のみにショックレー変位を与えて余剰四面体層と整合させて、余剰なフランク型積層欠陥を作成します。この作成の仕方は、本連載の“その(3)”で紹介した作り方です。この作り方では、余剰な四面体層の最近接四面体層のみにショックレー変位を与えます。フランク型部分転位のバーガース・ベクトルのショックレー変位成分を無くすように設定します。まずは、図6-1のやり方で作成したフランク型積層欠陥を図6-2に示します

図6-2 図6-1の積層欠陥の作り方で作成したショックレー変位を伴わない余剰のフランク型積層欠陥。8種類のフランク型積層欠陥をまたいだ積層の順番。赤文字は新たに挿入された余剰四面体層。緑色文字はショックレー変位を起こした四面体層。

図6-2には8種類の異なるフランク型部分転位のコア構造とフランク型積層欠陥を示しています。それぞれの積層欠陥に(a)、(b)、(c )、 …とインデックスをわりふっていますが、それ以外に、どうやって作ったのかがわかるように便宜上の簡単な名前をつけています。(a)3AC’B→B’の3は図6-1の方法で作ったフランク型積層欠陥とフランク型部分転位を示しています。3AC’B→B’ のAC’は四面体A層の上に四面体C’層を新たに挿入することを示します。3AC’B→B’ のB→B’は挿入した四面体層の上のB層をB’にショックレー変位を加えていることを示しています。(e)の3AA’A→B’の3AA’は四面体A層の上に四面体A‘層を新たに挿入することを示しています。A’A→B’のA’のアンダーバーはA’層の下側のA層にB’層へのショックレー変位を加えていることを示しています。

毎度同じような事を冗長に書いていますが、(a)の欠陥構造に対してc軸方向に沿って映進操作すると(c)に変換されます。また、(b)にc映進操作すると(d)になります。同様に、(e)は(g)に、(f)は(h)にc映進操作で変換されます。この変換を考慮すると、図6-2は4つの欠陥構造のリストで充分かもしれませんが、丁寧に説明するために、8種類の欠陥構造をもれなく書いておきます。

また、この8つの欠陥の構造のうち、フランク型積層欠陥をまたいだ積層構造を見ると次の4種類に整理することができます。

(d) = (e)、 (c)= (h) (b)=(g)、   (a)= (f)、

(d)と (e) は、一見すると異なる積層構造のように見えますが、1ユニットセル分だけc軸方向へシフトすると同じ積層の順番になります。積層欠陥をまたぐ積層構造が同じものは、フランク型積層欠陥部のみのSTEM像を撮影しても、同じ像を示すので、どの四面体層が新たに挿入された層なのかの区別はつきません。

Zhadanovの表記法で示すとと、(c)、(h)、(a)、(f)は、…2,2,1,4,2,2,….の積層の順番になります。また、(d)、(e)、 (b)、(g) では…2,2,4,1,2,2,….の積層の順番になります。つまり、STEMで積層欠陥の断面を観察して、…2,2,1,4,2,2,….または…2,2,4,1,2,2,….の積層構造が観察されれば、それは、ショックレー変位なしの余剰なフランク型積層欠陥かもしれません。これらの積層に含まれている1,4 や4,1の積層構造がPLスペクトルのピークや形状に特徴を与えると推察されます。図6-2では、8種類の積層構造を考察しましたが、最終的に2種類の積層構造に収束しています。

フランク型部分転位のコア構造を観察すると、どの層が余剰に挿入された層かが判別されて、図6-2の8つのフランク型部分転位の構造を区別することが可能になるかもしれませんし、部分転位のコア構造部分がリコンストラクションなどを引き起こしていて区別がつかない可能性もあります。

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