〜 イノベイティブな半導体、エレクトロニクス、エネルギー技術のソルーション 〜

Innovative Semiconductors, Electronics, & Energy Solutions

タグ一覧

コラム 解説

秘密特許

今回のコラムでは、最近よく耳にする秘密特許を話題として取り上げてみようと思う。

今年の通常国会で、経済安全保障推進法案が成立(5/11)したが、その中の一つに秘密特許制度の創設が含まれている。今後、正式に公布されると、2年以内に施行される見込みとされている。

秘密特許制度を一言でいうと、国家の安全保障に直結する機微技術に関して、出願内容を一定期間秘密にする制度であり、これまで、G7の中で日本だけが保有していなかった。

今年、この制度を創設するに至った背景には、製品については、これまでも外為法の輸出管理規定により、搭載された機微技術の流出防止策が厳しく講じられてきたが、その一方で、上流側に当たる技術開発の段階については、開発された技術が特許として出願されると特許明細書の形で公開されることにより、機微技術も不可避的に漏れてしまうという現実があることが指摘されている。もっともな指摘と思う。

一口に秘密特許制度と言っても国によって違いがあることが知られている。秘密指定を受けてもドイツのように特許付与まで行われる(特別登録簿があり閲覧には特別な許可が要る)国もあれば、アメリカのように、審査・査定までは行われるが特許付与が凍結される(公開有害認定)か、もしくは審査そのものが凍結される(審査有害認定)かのいずれかになっている国もある。共通しているのは、関係政府機関と特許庁により秘密指定の認定と命令が出され、公表が禁止され、許可のない外国出願等もできなくなる。その反面、何らかの法的保護・補償がなされることである。また、秘密指定の期間は、関係政府機関により秘密指定の解除が認められない限り、何度でも更新される。

我が国に導入される秘密特許制度がどのようなものになるかは未だ分からないが、上記と類似の制度が導入されることであろう。その場合、何が起こるのだろうか。デュアル・ユース、すなわち軍事転用可能な民生技術の場合について、「サブマリーン特許」の視点と「知の共有とイノベーション」の視点から、ちょっと考えてみたい。

先ず、1つ目の視点について、ここでは前提として、 “発明した技術が秘密指定されたとしても発明者(企業)は、その秘密指定された技術(以下、ここでは秘指技術と言う)を用いた民生品を製品化できる”ものと仮定する。すると秘密指定されている間は、発明者は特許権を行使できない可能性が高く、そのため他社が模倣することを抑止できず、結果、得られるはずの利益が得られなくなるリスクがある。ところが、秘密指定が解除され特許も認められれば、状況は一変する。今度は、模倣した(悪意の有無にかかわらず結果として模倣した)同業他社が、事業の存続にかかわる影響を被ることになる。殊に、特許の成立時期が遅れ、市場が成長しかつその秘指技術が不可欠な技術として広く使われるようになっていれば、秘指技術は、発明者(特許権者)が意図するしないにかかわらず、かつての「サブマリーン特許」のような大きな影響(特許権者には大きな特許料収入、知らずに使用した同業他社には大きな損害)を与えることになるのではないだろうか。良識ある対応が、秘密特許の特許権者と使用者の双方に求められる。

次に、2つ目の視点に移る。このあいだ、たまたま見ていたテレビ番組「NHKスペシャル_ヒューマン・エイジ」の中で、面白い話に出会った。それは『集団脳』という概念で、「集団内で、ある技術について情報をやりとりするうちに、一定の確率で新たなアイデア(技術革新)が出現し、集団が大きければ大きいほど、技術革新が加速しやすくなる。それが、『集団脳』と呼ぶ、人間の進歩の力」ということであった。人類進化生物学者ジョセフ・ヘンリック教授が提唱した説とのこと。イノベーションの核心に触れる説だと思う。

知の共有がイノベーションを進めるという立場からは、過度の秘匿はイノベーション機会を逸失させる懸念があると言えるのではないだろうか。昨今、技術革新を生み出す手段として注目されているオープン・イノベーションでは、プロジェクト内でノウハウとして登録された技術が共有・使用され、更なるイノベーションが創出される。創出された技術は、規定に従い相当する対価で出身企業に持ち帰って製品化される。では、プロジェクトから創出された技術が秘密特許に指定されたら、その取り扱い(プロジェクト内で使い続けることの可否、出身企業に持ち帰ることの可否)は、どうなるのだろうか。今後制定される秘密特許制度との整合性を持って整理する必要があるように思われる。

秘密特許と言うと、軍事関係の話だから関係ないと思いがちだが、デュアル・ユースにまで対象が広がると、高電圧を扱うパワエレや耐過酷環境エレクトロニクス、自動運転、ロボット、航空宇宙・海洋、高速大容量通信など身近なところが関係してくるかも知れない。

秘密特許制度が今後どういったものになるのか注視して、戦略的な対応を考える必要がありそうだ。

参考資料

(氷見啓明)

カテゴリー:

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP