〜 イノベイティブな半導体、エレクトロニクス、エネルギー技術のソルーション 〜

Innovative Semiconductors, Electronics, & Energy Solutions

タグ一覧

コラム 解説

SiCエピタキシー欠陥のSEM観察 (2)
〜 局所的な3C-SiCの成長 〜

その(1)”では転位や積層欠陥がエピ層表面で終端している場所のSEM像を紹介しました。”その(1)”で述べたように、六方晶の結晶構造を持つ4H-SiCのエピ層中に何らかの理由で局所的に立方晶構造の3C-SiCが成長することがあります。この局所的な3C-SiCも代表的なエピ欠陥です。”その2”ではエピ層成長中に局所的に出現することがある3C構造のエピ欠陥のSEM像を紹介します。

3C-SiC粒子とシート状の3C-SiC欠陥

図1はエピ層表面にめり込んでいる3C粒子で、比較的よく観察されます。これらの3C粒子は多結晶で結晶粒内部には双晶なども観察され各3C結晶はランダムな方向を向いています。いったん表面にこれが現れると消えることはありません。

SiCウエハ表面の3C粒子SEM像
図1

エピ層成長炉内部は高純度の3C-SiC結晶でコートされています、この3Cのコートが炉の昇温時、あるいはエピ層成長時に熱衝撃によって剥がれ4H-SiCウエハの上に落下し、エピ層中に3C-SiCの粒子がめり込んで成長すると考えられていまます。この粒子は4H-SiCエピ層にめり込んでいますが、この粒子の周辺のエピ層中には3C構造のシート状の三角欠陥、積層欠陥、転位などを生成させているので、この欠陥の周囲の大きな面積で素子の歩留まりを下げてしまいます。4H-SiCのエピ層はステップフローモードで成長しているので、エピ層内部のこれらの欠陥は、ステップフローの下流側、つまり[1120]側で発生します。

SiCウエハ表面3C粒子断面モデル
図2

エピ層中に形成される3C層もポリタイプインクルージョンと呼んでいます。この状態を模式的に図2に示します。 図3はエピ層内部で成長したシート状の3Cが3C-SiC粒子より少し離れた位置で表面に現れているところを示しています。図4に、別の3C粒子の場合ですが、粒子状インクルージョンによりエピ層中に成長した3Cのシート状インクルージョンをSEMのCL(Cathode Luminescence)の3Cの波長で観察した像を示します。通常の低い倍率のSEM像の観察では3Cシート状インクルージョンが存在しているのかは明瞭ではありませんが、CL像を観察するとエピ層中に埋め込まれた3Cの三角形状のシートが発光していて、3Cの三角形状のシートが存在していることが分かります。ちなみに3C粒子の場合、粒子の中の窒素濃度が適切ではなく、発光しないと考えられています。MOS構造デバイスを作製すると3C粒子から少し離れた場所のデバイスが絶縁破壊を起こすことが報告されていて、その原因は、これらの図より明らかなように粒子状の3Cインクルージョンから少し離れた場所まで、4H-SiCエピ層に埋もれたシート状の3Cインクルージョンや積層欠陥などが存在しているためです。

SiCウエハ表面3CインクルージョンSEM像
図3
SiCウエハ表面3CインクルージョンSEM像とCL像
図4

これらの欠陥発生の対策は通常、エピ炉内のクリーニング、昇温速度の調整、ウエハ搬送時にエピ炉に機械的衝撃を与えないようにする、などが行われていますが、さらなる根本的な対応が必要だと考えられています。この欠陥については下記の論文に解析の詳細があります。

  • B. Chen et al., Acta Materialia Vol. 60 pp51-58 (2012)

三角欠陥とコメット

SiCウエハ表面三角欠陥とコメット像
図5

3C粒子やゴミのようなものがエピ層成長表面に付着するとその周辺は3C層が成長することは3C粒子の説明で述べました。シート状3C層がエピ層中に埋まっている場合と表面に出ている場合があり、表面に露出しているものは三角欠陥やコメットと呼ぶことがあります。エピ層はステップフローモードによって成長しています。ステップフローの方向は図5の左から右です。エピ層成長に伴い末広がりに3C部が拡大するのが三角欠陥で、先すぼみ状に成長するのがコメットです。左の欠陥が三角欠陥で、右の欠陥がコメットです。三角欠陥はSi面のエピ層成長で観察され、コメットはC面のエピ層成長で観察されます。三角欠陥とコメットは両者とも特徴的なΣ27界面を持つ双晶構造を3C結晶内にもっています。特殊な3Cの双晶構造を内部にもっているので、これらの3Cポリタイプインクルージョンの成長表面と、六方晶の4H-SiC(0001)面とは整合性をもっておらず、一度これらのポリタイプインクルージョンが発生するとその上部に4H-SiCエピ層は成長しません。この特殊な双晶構造を形成しない場合は、図2のモデル図で示したように3C(111)表面と4H(0001)面は整合するので、ステップフロー成長に伴い3C層の上に4H層がかぶさって、3C層は4Hエピ層に埋もれていきます。これらの三角欠陥やコメットについては、下記に解析の詳細があります。

  • T. Yamashita et al., J. Cryst. Growth Vol.433, pp97-104 (2016).
  • T. Yamashita et al., J. Cryst. Growth Vol.416, pp142-147 (2015).

以上のべた欠陥密度を下げるには3C粒子の密度を下げる場合と同じことが考えられます。エピ欠陥密度は、大局的には年々減少しているのですが、さらなる粘り強い工夫が必要と考えられています。

つづく

カテゴリー:

PAGE TOP