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コラム 解説

放射光トポグラフ法の利用 (7)
〜 ショックレー型積層欠陥、積層欠陥の変位ベクトルR 〜

この連載記事は、半導体中の格子欠陥の解析評価に興味を持つ人を対象にして書いています。前回まで、放射光ベルクバレットX線トポグラフ法で、4H-SiCウエハ中の基底面転位が、どのようなコントラストを示すかを説明しました。今回以降しばらく複数回に分けて積層欠陥の像について説明します。最初にショックレー型部分転位と、ショックレー型積層欠陥のコントラストについての説明をしたいと思います。積層欠陥がトポグラフ像ではどう見えるのか、あるいはどう見えないのかの話はパワエレ研究全体の中では優先順位が低い話と思われますが、実際にウエハをトポグラフ法で観察すると、それなりの密度で各種の積層欠陥が観察され、それらはパワーデバイスの歩留まりの低下や特性劣化の効果を及ぼします。X線トポグラフ法や透過型電子顕微鏡法を利用して積層欠陥の観察を行う際に必要な知識をまとめて記述しておくことは無駄ではないかもしれません。

長い話を短くするために、多少天下り的な解説をします。この回では最初に順方向特性劣化現象で形成されたショックレー型積層欠陥の像の説明を行います。次に、積層欠陥を回折現象で観察する際に重要になる積層欠陥の変位ベクトルRの説明を行います。次回の連載記事で変位ベクトルRを使った積層欠陥のコントラストのルールの説明とg・R解析法について説明します。その後に、g・R解析法を用いた解析法では検出することができない、4H-SiC結晶ではたびたび遭遇するステルスな積層欠陥について説明します。

ショックレー型部分転位のコントラスト

p-i-n構造のデバイスで順方向に電流を流すと次第に抵抗値が増大していく、順方向特性劣化現象を引き起こす場合があります。現在はさまざまな対策がとられるようになりこの現象は抑制されるようになっています。i層部分に基底面転位が存在すると、i層部分を動き回る電子とホールの再結合位置になります。この時の再結合エネルギーでSiコア30度部分転位が動きます。Cコア部分転位は動きません。Cコア転位は1000℃以上の温度では動くことが実験で報告されています。Siコア30度部分転位が動く方向は、ショックレー型積層欠陥の面積が拡大する方向です。ショックレー型積層欠陥の面積拡大に伴い順方向の抵抗が増大することが知られています。図7-1は同様のメカニズムで生成した構造を観察した結果を示しています。

窒素濃度の薄いエピ層つきの4H-SiCのウエハに、水銀ランプを使って光を長時間照射した後、放射光ベルク・バレットX線トポグラフ法で観察した結果です。b=1/3[112(-)0]の基底面らせん転位に近い混合転位部が拡張を引き起こしています。おおもとの基底面転位b=1/3[112(-)0]はA→B→C→Dの位置にあったことが推察されます。

図7-1, 光を長時間照射したSi面側エピ層つきSiCウエハの放射光ベルク・バレットX線トポグラフ法による観察。それぞれ、(a) g=1(-)1(-)28、 (b) g=112(-)8、(c) g=11(-)08での観察。転位の向きはA→B→C→D、およびA→B→E→F と設定する。BCDFEで囲まれた部分はショックレー型積層欠陥、CD部はCコア30度部分転位に近い部分転位、EFはSiコア30度部分転位。白矢印は表面に投影したgベクトルの向き。(d)の赤矢印はSiコア30度部分転位EFが動いて行く方向。

この転位は“その(2)”で議論した図2-3(a)の“界面転位A”そのものです。“界面転位A”のらせん転位部が、2つの部分転位と積層欠陥に分裂した状態を図7-1は示しています。図7-1のAB部はCコア刃状転位部です。Cコア転位は1000℃以下の温度では通常動かないことが知られています。光の照射により、基底面らせん転位部分が、2つのショックレー型部分転位とショックレー型積層欠陥に分解しています。CD部はショックレー型Cコア30度部分転位に近い部分転位、EFはショックレー型Siコア30度部分転位、BCDFEで囲まれた部分はショックレー型積層欠陥です。Cコア転位は1000℃以下の温度では通常動かないことが知られていますので、Siコア部分転位EF部が、図7-1(a)の赤矢印方向に動いたと推察されます。この時の完全転位の分解の模式図は、図3-3に示しています。図7-1(a)(b)(c) を見ると、部分転位EFはいずれの回折条件でも、明るいコントラストが強く現れていて、Siコア刃状成分が含まれていることがわかります。一方、図7-1(a)では部分転位EFの明るいコントラストの右横に暗い非対称コントラストがあることがわかります。図7-1(b)では部分転位EFの明るいコントラストの左横に暗いコントラストは現れています。つまり非対称コントラストの逆転が観察されます。また、図7-1(c)では非対称コントラストは消滅しています。この非対称コントラスト逆転は”その(4)“の図4-3(a),(b),(c)や、”その(5)”の図5-1,(a),(b),(c)で議論した基底面らせん転位の剪断歪み成分のコントラストの特徴でした。図7-1(a)(b)(c)の部分転位EFの非対称コントラストの現れ方は基底面らせん転位の剪断歪み成分をも持っていて、部分転位EFはSiコア刃状転位成分とバーガース・ベクトルが転位の向きと平行な基底面らせん転位成分の混合転位であることを示しています。部分転位EFはSiコア30度部分転位なので観察結果と、予測結果は矛盾しないことを示しています。同様な特徴は、部分転位CDでも現れています。部分転位CDは、図7-1(a)(b)(c)の回折条件で基本的に暗いコントラストを示していますが、図7-1(a)(b)(c)では付随する弱い明るい非対称コントラストの逆転と消滅が観察されます。このことからも部分転位CDはCコア30度部分転位であることと矛盾しません。

 

g=1(-)1(-)28とg=112(-)8の例で見たようにウエハ表面に投影したgベクトルの向きを逆転させると、らせん成分を持つショックレー型部分転位部のコントラストの逆転が観察されました。ウエハ表面に投影したgベクトルの向きを逆転させると、部分転位に付随する非対称コントラストも逆転することは、ショックレー型部転位の一つの特徴であると考えられ、このコントラストの性質は、後に述べるフランク型積層欠陥と区別する際に、それなりに利用価値があります。

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