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コラム 解説

増殖・成長する積層欠陥とMOSFETの特性劣化 (4)
〜 基底面転位からのショックレー型積層欠陥の湧き出し1 〜

b=+1/3[1120]の基底面Siコア刃状転位の場合

図4-4は4つのb=±1/3[1120]、ξ= ±[1100]の基底面Siコア刃状完全転位が部分転位に分解している状態を示しています。図4-4 (a)(c)はそれぞれ図2-6(a)、(b)の基底面Siコア刃状完全転位部から抜き出してきた構造です。図2-6(a)の転位ループの12時の場所の状態、図2-6(b)の転位ループの6時の場所の状態です。Siコア刃状転位部は六角形の転位ループの図ではちょうど角の部分で示されていますが、この部分を角ではなく辺として書き直します。図4-4 (a)(c)の構造は(1120)面に対して互いに鏡映反転対称の関係にあります。転位の向きの選定には任意性があります。転位の向きを逆向きに選ぶと、バーガース・ベクトルの向きは逆になり、図4-4 (a)(c)の構造は実は同じ欠陥構造であることがわかります。図4-4 (b)(d)はそれぞれ図3-5(a)(b)の基底面Siコア刃状完全転位部から抜き出してきた構造ですが、図4-4(a),(c)と同様な理由により、実は同じ構造の欠陥であることがわかります。これらの基底面Siコア刃状転位はSiコア60度部分転位またはSiコア120度部分転位に分解しています。

図4-4黒丸は貫通刃状転位。破線はSiコア部分転位、グレー部分の領域はショックレー型積層欠陥。白矢印は転位の向き。黒矢印はバーガース・ベクトルの向き。(a),(b)b=1/3[1120]、ξ= [1100]の基底面Siコア刃状転位。 (a)はこの転位がA’層かあるいは C’層中に位置しているとき、(b)はこの転位がA層かあるいは B層中に位置しているときの状態。 (c) ,(d)b=1/3[1120]、ξ=[1100]の基底面Siコア刃状転位。(c)はこの転位がA’層かあるいは C’層中に位置しているとき、(d)はこの転位がA層かあるいは B層中に位置しているときの状態。

Siコア60度部分転位とSiコア120度部分転位自体が動くところは観察されていないので、図4-4のような転位からは積層欠陥は成長しないと推察されますが実際の観察では図4-5(a),(b)に示すような2重菱形のショックレー型積層欠陥が生成し、大きく成長していくところが実験的に観察されます。図4-5(a)図4-4(a)または(c)から成長した積層欠陥、図4-5(b)図4-4(b)または(d)から成長した積層欠陥です。ただし部分転位の向きは、図4-4(a)図4-4(b)に合わせています。この場合、Siコア60度部分転位やSiコア120度部分転位部より、Siコア30度部分転位やSiコア150度部分転位が湧き出してきて、最終的にこれらのSiコア30度部分転位とSiコア150度部分転位が動いて積層欠陥が成長しているように観察されます。

図4-5(a),(b)はそれぞれ図4-4(a),(b)の基底面Siコア刃状転位からREDG効果により成長した2重菱形のショックレー型積層欠陥。破線はSiコア部分転位、実線はCコア部分転位、グレー部分の領域はショックレー型積層欠陥。

Siコア60度部分転位、Siコア120度部分転位から、なぜSiコア30度部分転位、Siコア150度部分転位が湧き出してくるのかは不明です。REDG効果によりSiコア60度部分転位やSiコア120度部分転位も少しだけ動き、このとき、Siコア30度部分転位、Siコア150度部分転位が形成される方向に動くのかもしれません。一旦、Siコア30度部分転位、Siコア150度部分転位が形成されると、それら先はSiコア30度部分転位、Siコア150度部分転位が動いて積層欠陥が成長するというシナリオが考えられます。また、マクロ的には直線状のSiコア60度部分転位、Siコア120度部分転位のように観察されていても、ミクロ的には転位はジグザグしていて、たくさんのSiコア30度部分転位、Siコア150度部分転位を含んでいるのかもしれません。REDG効果により、それらのミクロ的なSiコア30度部分転位、Siコア150度部分転位が動き出し、一直線状になりマクロ的なSiコア30度部分転位、Siコア150度部分転位が出現するのかもしれません。これらのことは、Iijima さんたちの論文(Iijima et al., Philos. Mag. 97 (2017), pp. 2736) で議論されています。Ning & PirouzさんはTEMでSiコア部分転位とCコア部分転位で転位のギザギザを観察していて、ギザギザの状態がSiコア部分転位とCコア部分転位では異なることを報告しています。(Ning & Pirouz , J. Material Research 11 884-894 (1996)。ただしNing & Pirouzさんの観察は3CのSiCの観察です。3Cの場合でも4Hの場合と同様に四面体層中に転位が存在し、すべり面の上側の最近接Si原子層とすべり面の下側の最近接続C原子層の配置は同じなので、ギザギザ状の転位の形態は、3Cの場合と4Hの場合ではほぼ同じかもしれません。これらの実験結果を考慮すると、Siコア30度部分転位に限らず、そもそもSiコア部分転位の全てが、危険な存在であるとみなすべきという結論が実験結果から考えられます。

図4-5(a)ではb=1/3[0110]の部分転位に沿って、pr部はCコア30度部分転位部、rs部はSiコア30度部分転位部、st部はSiコア150度部分転位部、tq部はCコア150度部分転位部です。b=1/3[1010]の部分転位に沿って、pu部はCコア150度部分転位部、uv部はSiコア150度部分転位部、vw部はSiコア30度部分転位部、wq部はCコア30度部分転位部です。図4-5(a)のSiコア30度部分転位部、Siコア150度部分転位部はREDG効果によりこれらの転位に垂直な方向に動き、ショックレー型積層欠陥の面積を増やしていきます。これらのCコア転位部は動くことはありませんが、積層欠陥の成長に伴って延伸します。図4-5(b)の部分転位の各部分は、図4-5(a)の場合と同様の説明が可能です。図4-5(a)(b)の構造は互いにc映進対称の関係にあります。

連載のこの回では、b=±1/3[1120]の基底面転位のらせん転位部や、Siコア転位部からどのような形状のショックレー型積層欠陥が湧き出すかを考察することができました。この考察には、図2-6図3-5b=±1/3[1120]の基底面転位の転位ループの図を参照し、論文に示されているいくつかの実験結果との対比から求めることができました。

Siコア30度部分転位が動くところがin-situe実験などで色々と報告されていています。そこで、基底面転位ループを描いて、基底面転位がどの方向を向くとSiコア30度部分転位が出現するのかを六角形の基底面転位ループを描いて調べました。しかし、実際の実験による観察結果との詳細な照合から、Siコア30度部分転位ではなくても、Siコア部分転位であれば、Siコア部分転位からSiコア30度部分転位が湧き出してきて、その後Siコア30度部分転位が動いて積層欠陥が成長するという事がわかります。詳細で煩雑な議論をしていたのですが、簡単な結論になりました。読者は、何この結論?と思うかもしれません。

また一方で、同じ方向を向き、同じバーガース・ベクトルを持つ基底面転位でも、異なる向きの菱形積層欠陥が現れることが結論として出てきました。どの向きの菱形積層欠陥が出現するのかは、積層欠陥の発生源の基底面転位がどの四面体層のすべり面にのっているかに依存します。プライムなしの四面体、つまり四面体A、B層の場合と、プライムつきの四面体、つまり四面体A’、C‘層の場合の違いに依存しています。

今回は、2重菱形積層欠陥や、1重菱形積層欠陥の湧き出しを考察しました。しかし、どのような場合に2重菱形積層欠陥が出現し、どの場合に1重菱形積層欠陥が出現し、どの場合に積層欠陥は出現しないのかについては、まだ整理されていません。連載の次回でさらにこれらについて整理します。

 (つづく) 

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