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コラム 解説

SiCのフランク型積層欠陥 (4)
〜 ショックレー変位を伴う欠損したフランク型積層欠陥1 〜

図 4-4では消去した層の位置を赤い破線で示しています。それぞれの破線の位置が異なっています。フランクの部分転位のコア構造をSTEMなどで観察する4層のうちどの四面体層が欠損したかはわかるかもしれません。6種類の異なるフランクの部分転位を区別することは可能かもしれませんし、リコンストラクションによりコア構造が変化し、区別できないかもしれません。

前回の図 3-7図 4-3とを見るといくつかのことがわかります。最初に純粋なフランク型積層欠陥の(a)1AB→B’の積層構造を作って、さらにこの消去層の直上の四面体にショックレー変位を与え、そこから上側の結晶全部にショックレー変位を与えると (e)2AB→Aになります。また同様に、純粋なフランク型積層欠陥の(c)1A’C’→Cに、この消去層の上側の結晶全体にショックレー変位を与えると (h)2A’ C’→A’になります。

つまり (e), (h)の積層構造は、(a), (c)の純粋なフランク型積層欠陥の消去した層の直上の炭素原子層1枚をはさんでその上側にショックレー型積層欠陥が張り付いている構造とも考えられます。この関係を下の図4-5に示します。

もう少し詳細に述べます。(a)→(e)のショックレー変位を考えます。(a)では、消去層の直上でA’/B→A’/B’のショックレー変位が発生しています。これは図 1-5に存在しているショックレー変位です。続いてこのB層から変位したB’が、さらにB’/C’ →A/C’なるショックレー変位を起こします。この変位は、図 1-4に示されているショックレー変位です。最初から最後まで見ると、B→Aなる変位を行なっています。プライム無し四面体Bからプライム無し四面体Aへ四面体が平行移動したショックレー変位が実現していると理解されます。2回ショックレー変位を起こしていますが、1回目のショックレー変位は結晶の上側に伝搬しない変位です。結果として1回分のショックレー変位が上側結晶全体に伝搬しています。

図 4-5 ショックレー変位を伴わないフランク型積層欠陥の(a),(c)の積層構造の消去層の直上の結晶全体にショックレー変位を与えると(e),(h)のショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥が作られる。

さらに前回の図 3-7図 4-3とを見るともう一つ別のことに気が付きます。(f), (i)の構造は前回の純粋なフランク型積層欠陥の(b)1BA→B’と(d)1C’A’→Cの積層欠陥での消去層の直下の四面体がショックレー変位を起こしていることがわかります。つまり消去層直下の四面体の底辺の3つのC原子と中心のSi原子の間のすべり面で変位を起こしている構造です。消去層直下の四面体層から積層欠陥構造を含む上側の結晶全体にショックレー変位を与えると、 (f)2B A’→C‘や(i)2C’A→Bの積層構造を作り出すことができます。この関係を図 4-6にまとめます。これは純粋なフランク型積層欠陥の直下の四面体層にショックレー型積層欠陥が1枚張りついている構造とも考えられます。また、一方で、(b),(d)は消去層の直下の四面体層にのみショックレー変位を与えて作られた純粋なフランク型積層欠陥だったのですが、このショックレー変位が元に戻りキャンセルされ、その代わりに消去層から上側の結晶全体がショックレー変位を起こした構造とも理解されます。 一応、(e),(h),(f),(i)は純粋なフランク型積層欠陥とその直上または直下にショックレー型積層欠陥が導入されている構造だと整理しておきます。

図 4-6 純粋なフランク型積層欠陥の(b),(d)の積層構造の消去層の直下の四面体層を含みその層から上側の結晶全体にショックレー変位を与えると(f),(i)のショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥が作成される。ショックレー変位なしとショックレー変位ありのフランク型積層欠陥の関係を示す図。

図 4-3を見るともう一つ別のことに気がつきます。純粋なフランク型積層欠陥(b)の消去層の直下の四面体層にショックレー変位を与えるとショックレー変位つきフランク型積層欠陥(f)が出来上がります。次にこのショックレー変位つきフランク型積層欠陥(f)の消去層の直上の四面体層にショックレー変位を与えるとショックレー変位つきフランク型積層欠陥(g)が出来上がります。逆に(g)の構造にショックレー変位を与えると(f)に戻ります。(f)と(g)は互いにショックレー変位仲間です。同様に、純粋なフランク型積層欠陥(d)の消去層の下の四面体層にショックレー型積層欠陥を導入すると(i)になり、さらに消去層の上の四面体層にショックレー型積層欠陥を導入するとショックレー変位付きフランク型積層欠陥(j)になります。このことを考慮すると、(g)や(j)は純粋なフランク型積層欠陥1枚の上下の四面体にショックレー型積層欠陥が張り付いている構造とみなすと、合計3枚の積層欠陥の複合体だとも解釈されます。この関係を図 4-7にまとめます。伝搬するショックレー変位は2回発生していますが、それらの変位は、互いに120度の角度がついていて合計するとショックレー変位1つ分の変位になっていると考えることはできます。

図 4-7 ショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥(f), (i)の消去層の直上の四面体層とその上の結晶全体にショックレー変位を与えると、さらにひと手間かけたショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥(g), (j)を作ることができる。

まとめ

図 4-5,4-6の説明で、(e),(h),(f),(i)は純粋なフランク型積層欠陥の直上か直下にショックレー変位を導入したものと説明しました。このショックレー変位は、連載その(1)で説明した普通のショックレー変位で、この変位は四面体の向きも変えます。純粋なフランク型積層欠陥の積層構造は、…, 2,2,5,2,2, …でした。この同じ向きの5層に伝播するショックレー変位を与えると、5 → 2,1,2 の構造になります。これが、(e),(h),(f),(i)の積層構造が、…, 2,2,1,2,2, …になっている理由です。(g),(j)は(f),(i)にさらにショックレー変位を与えた構造です。(f),(i)の … ,1,2, … の構造の2の層の下の層にショックレー変位を与えると、… ,2,1, …になります。最終的に全てのショックレー変位付きフランク型積層欠陥は…, 2,2,1,2,2, …の積層構造を示していることがわかります。煩雑で冗長な説明をしましたが、簡単な結論が出てきましたと言って収束させたいところです。…, 2,2,1,2,2, …の,1,がPLスペクトルで特徴的なスペクトルの形状を示すと考えられます。通常のショックレー型積層欠陥の場合,…2,2,1,3,2,2,….または,…2,2,3,1,2,2,….の積層構造になり、1を含みます。また、この連載の最後のまとめで示しますが、1を含む積層構造はいくつかあり、PLスペクトルではそれらとの区別には注意が必要かもしれません。

顕微PL法で検出されるバーシェイプ欠陥は、フランク型積層欠陥の近接に多数枚のショックレー型積層欠陥が張り付いた構造だと言われています。今回考察したショックレー変位つきのフランク型積層欠陥は構造の最も簡単なバーシェイプ欠陥に分類されると思います。また、キャロットに付属するフランク型積層欠陥もショックレー変位付きのフランク型積層欠陥であることは報告されています。

図 4-5の(e), (h)や図 4-7の(f)や(i)のショックレー変位を見ると、A’→C’や、A→Bの変位となっています。これらの変位はプライム付きからプライム付きへの変位、あるいはプライム無しからプライム無しの変位です。これは連載その(1)で示したショックレー変位とは異なり、ちょっと変なショックレー変位だと書きました。図 4-7の右側の(g)や(j)では、変位はA’→Bや、A→C’となっていて、プライム付きからプライム無し、プライム無しからプライム付きの変位になっていています。一見すると図 1-4, 図 1-5で示したかのようなショックレー変位です。しかしながら、これも、図1 -4, 図 1-5で示したショックレー変位とは異なるショックレー変位だと書きました。これらのちょっと変な変位について、連載の次の回でさらに詳しく考察することにします。簡単な話をややこしく書いているのではないか?といわれるとそうかもしれません。煩雑な話は続きます。

(つづく)

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