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コラム 解説

SiCのフランク型積層欠陥 (8)
〜 2H-GaNのフランク型積層欠陥との比較 〜

ショックレー変位を伴う欠損したフランク型積層欠陥

2H-GaNのショックレー変位を伴う欠損したフランク型積層欠陥と、フランク型部分転位の構造を示す表を図8-4に示します。ここでも各積層構造の作り方が簡単にわかるように名前をつけています。この名前の意味は、図4-3で説明した意味と同じですが、2H-GaNの積層構造について示したものなので、同様な表示でも積層構造自体は4H-SiCのものとは異なっています。図中の赤い横線は消去した層の位置。青い文字はショックレー変位を起こした四面体層。緑色の文字はショックレー変位に伴ってシフトした四面体層を示します。これらは、積層欠陥の上側結晶をショックレー変位させたもののみを示しています。積層欠陥の下側結晶をショックレー変位させたものは示していません。図を見てわかるように、積層欠陥をまたいだ積層の構造を見ると、(c)=(e), (d)=(f) になっていて、[1120]方向から見ると、(c)=(e)と(d)=(f)は映進対称な積層構造になっています。Zhadanovのノーテーションではどちらも…,1,1,2,1,1,…と示すことができます。これらの特徴も4H-SiCの場合とは異なります。図8-3で示される2H-GaNのショックレー変位なしの欠損したフランク型積層欠陥の作成の仕方は作成の工程数が多いので、こちらのショックレー変位を伴う欠損したフランク型積層欠陥の方が現れやすいと考えられ、これがI1として報告されていると考えられます。

図8-4 2H-GaNのショックレー変位を伴う欠損したフランク型積層欠陥の構造。赤い横棒は消去した四面体層の位置。青文字はショックレー変位を起こした四面体層。緑文字はショックレー変位に伴い平行移動した四面体層。

ショックレー変位を伴わない余剰なフランク型積層欠陥

ショックレー変位を伴わない余剰なフランク型積層欠陥の構造を考察します。図6-1(a)の作り方で作ったショックレー変位を伴わない余剰なフランク型積層欠陥の構造を図8-5に示します。作り方を示した便宜上の名前の付け方は図6-2で示した説明とほぼ同じですが、2HのGaNの構造にあてはめているので積層の構造自体は異なります。赤文字は新しく付け加えられた余剰な四面体層を表し、その直上か直下の四面体層にショックレー変位を与え整合性よく四面体層を繋いでいます。ショックレー変位を与えた層を青い色で示しています。毎度おなじみの記述ですが、積層欠陥をまたぐ積層の順番のみに着目すると、(h)=(i)となっていてこれらは、積層欠陥部のHRTEM像やHAADF-STEM像を撮影しても区別はつきません。また 同様に(g)=(j)になっていて、 [1120]方向から見ると、(h)=(i)と(h)=(i)は映進対称な積層構造になっています。また困ったことにZhadanovのノーテーションでは…,1,1,4,1,1,…と示されます。2H-GaNではこの積層構造はE型の積層欠陥と分類されています。また、この…,1,1,4,1,1,…の積層構造は、ショックレー変位なしの欠損したフランク型積層欠陥と同じ表記になります。積層欠陥部のTEM像やSTEM像を撮影した場合は、ショックレー変位なしの欠損したフランク型積層欠陥と区別が困難です。PLスペクトルでも同様に区別はつかないと思います。2H-GaNの1ユニットセルは2層の四面体層から構成されています。この構造から、1層の四面体層を消去した場合と、1層の四面体層を加えた場合の区別はつかず、欠損したフランク型積層欠陥か余剰な積層欠陥かの区別に2H-GaNの研究者は頓着していないようです。TEMやSTEMでフランク型積層欠陥の縁にあるフランクの部分転位部の撮影を行うと、四面体層が1枚増えた場合と減った場合の区別は可能なはずです。

図8-5 2H-GaNのショックレー変位を伴わない余剰なフランク型積層欠陥の構造。赤文字は新たに挿入した四面体層。青文字はショックレー変位を起こした四面体層。

ショックレー変位を伴う余剰なフランク型積層欠陥

図8-6 2H-GaNのショックレー変位を伴う余剰なフランク型積層欠陥の構造。赤文字は新たに挿入した四面体層。青文字はショックレー変位を起こした四面体層。緑文字はショックレー変位に伴い平行移動した四面体層。

ショックレー変位を伴う余剰なフランク型積層欠陥の構造を考察します。図7-1(a)の作り方で作った、ショックレー変位を伴う余剰なフランク型積層欠陥の構造を図8-6に示します。作り方を示した便宜上の名前の付け方は、図7-2で示した説明とほぼ同じですが、2HのGaNの構造に当てはめているので積層の構造自体は異なります。赤文字は新しく付け加えられた余剰な四面体層を表し、その直上の四面体層にショックレー変位を与え整合性よく四面体層を繋いでいます。ショックレー変位を与えた層を青文字で示しています。ショックレー変位に伴いシフトした四面体層は緑文字で示しています。毎度おなじみの話ですが、Zhadanovのノーテーションでは…,1,1,2,1,1,…と示され、ショックレー変位を伴う欠損したフランク型積層欠陥と同じ積層構造になります。積層欠陥部の断面のSTEM像を撮影した場合は、欠損型と余剰型では区別がつきません。PLスペクトルでも区別がつかないと思います。フランクの部分転位部のコア構造を撮影を行うと、四面体層が1枚増えた場合と減った場合が判別できるので区別は可能です。

以上、見てきたように、フランク型積層欠陥をまたいだ上下の積層の構造のみに着目すると、2H-GaNでは欠損型と余剰型の区別はつきません。しかしながら、フランク型積層欠陥の縁に存在しているフランク型部分転位のコア構造のHRTEM像かHAADF-STEM像を撮影すると欠損型か余剰型かの区別はつくと思います。積層構造を見るとショックレー変位を伴うフランク型か、ショックレー変位のないフランク型かの区別はつきます。推察ですが、I1と分類されているフランク型積層欠陥の中には欠損型ではなく余剰型と分類されるものを含んでいるかもしれません。I1, とE の違いはintrinsic type (欠損型) とextrinsic type(余剰型)の違いというより、ショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥かショックレー変位のないフランク型積層欠陥かの違いと考えた方が良いように思います。フランク型積層欠陥の縁に存在するフランク型部分転位を観察すると明瞭に判別可能だと考えられます。

2H-GaNの考察は一応ここまでとさせていただきます。 連載の次回の解説は、まとめの文章を示します。

(つづく)

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