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コラム 解説

増殖・成長する積層欠陥とMOSFETの特性劣化 (1)
〜 4H-SiCの結晶構造と基底面転位の分解 〜

4H-SiCの結晶構造

最初に、この連載記事を読むにあたって必要な4H-SiCの結晶構造についての知識を要約します。4H-SiCの結晶は4層の四面体の積層構造から成り立っています。各四面体の中心にSi原子、4隅にC原子が位置しています。図1-2に示すように、この四面体の積層構造はc軸方向、つまり[0001]方向に沿って、ABA’C’と記号をつけた4層の四面体が単位胞中に存在しています。

図1-2 [1120]方向から見た4H-SiCの結晶構造。c軸方向に沿って ABA’C’と記号を割りふった4層の四面体の積層構造で1単位胞を構成している。

それぞれの四面体A、四面体B、四面体A’、四面体C‘の位置を[0001]方向から見ると図1-3のようになっています。赤線の菱形図形は単位胞の範囲を示しています。四面体Aは、中心のSi原子がA-siteに位置しています。A-siteは赤線の菱形の角位置に位置しています。B-siteは菱形の右半分の正三角形の重心位置、C-siteは菱形の左半分正三角形の重心位置です。図1-2図1-3を見ると、四面体の向きが2種類あることに気がつきます。四面体A、Bは図1-3で示されているように、四面体の底面の正三角形の頂角の一つが [1100]方向を向いています。つまり図の右方向を向いています。四面体A’、C’などのプライム記号付き四面体は四面体底面の正三角形の頂角の一つが [1100]方向を向いています。つまり左側を向いています。

図1-3 [0001]方向から見た4H-SiCの(a) 四面体A層、(b) B層、(c) A‘層、(d) C’層での各四面体のならび方。赤い菱形は1単位胞の範囲。(e)[0001]方向から見たA-site, B-site, C-siteの位置

四面体の向きが2種類あることは、後に重要な意味を持つことがわかります。断らない限り、このコラム・解説記事の連載では、[1120]方向から見た図では、図1-2のように常に右側が [1100]方向、左側が[1100]方向になるように固定します。[0001]方向から見た図の場合も、図1-3のように右側が [1100]方向、左側が[1100]方向になるように固定します。また、4H-SiCウエハは、後の連載(6)で説明する理由により、結晶方位を示すミラー・ブラベー指数は常に固定されています。つまり4H-SiCウエハはその形状から、どの向きが [1100]方向で、どの向きが[1120]方向なのか、は最初から決められています。

この解説文では、図1-2で示されているように、単位胞の1番下の層をA層、下から2番目の層をB層、3番目の層をA’層、1番上の層をC‘層と呼ぶことにします。A層は四面体Aで構成されているので、A層と呼ぶことにしますが、この層中でショックレー型積層欠陥が発生すると、その積層欠陥部では四面体B’がA層中に現れます。同様にB層は四面体Bにより構成されているのでB層と名づけますが、B層中にショックレー型積層欠陥が現れると、四面体C’がB層中に現れます。同様にA’層中でのショックレー型積層欠陥の部分では四面体CがA’層中に現れます。同様にC’層中でのショックレー型積層欠陥の部分では四面体BがC’層中に現れます。

4H-SiCの結晶構造について簡単に説明しました。過去の解説文 “フランク型積層欠陥 (1)”にも4H-SiCの結晶構造について説明を載せています。さらに詳しく知りたい方は過去の解説文を参照してください。次に、4H-SiCの基底面転位の簡単な説明をします。

4H-SiCの基底面転位

 最初に“すべり面”(slip-plane)の説明をします。結晶が応力を受けると塑性変形を引き起こすことがあります。この時、転位がすべり面に沿って動くことによって、結晶が塑性変形を引き起こしている場合があります。転位がすべり面に沿って動くとはどういうことかを、理解しやすいように模式的な説明図を図1-4に示します。

図1-4(a),(b),(c),(d) 転位がすべり面に沿って右から左へ動いている状態を模式的に示した図。すべり面を赤い破線で示している。

図1-4(a)では白丸で示した原子gがダングリングボンドを持つ状態を示し、この位置に刃状転位が存在している図です。図1-4(a)では白丸f原子と黒丸f’原子が繋がっていますが、図1-4(b)ではこのボンドが切れて、白丸g原子と黒丸f’原子がつながり、白丸f原子がダングリングボンドを持つ状態になります。転位が、右から左へ移動しています。同様なプロセスで図1-4 (c)では転位がさらに左へ移動しましす。図1-4(a),(b),(c),(d)は、転位が“すべり面”に沿って右から左へ動いている状態を示しています。すべり面とは、結晶が外部から応力を受けて“転位が動くことができる面”です。結晶面の全ての面がすべり面になるわけではなく結晶の特定の面がすべり面になります。

六方晶結晶の基底面をすべり面として、基底面上に存在し基底面に沿って動くことが可能な転位を基底面転位と呼んでいます。4H-SiC結晶は摂氏1000度以上の温度で、何らかの応力を受けると基底面転位が基底面に沿って動いて、塑性変形を引き起こします。つまり、高温では柔らかくなります。エピ層成長や、活性化アニールなど高温で行われていて、これらの温度で応力が加わると、基底面転位はすべり面に沿って動きます。しかしながら、室温では、基底面転位は簡単には動きません。詳しく述べるとCコア基底面部分転位が室温では動かないことは知られています。このことが、4H-SiCが室温では硬いことの原因だと考えられています。そして、Siコア基底面部分転位は室温でもすべり面上を動くことは報告されています。また、重要な事ですが、室温で、REDG効果によりSiコア30度部分転位はすべり面上を動きます。ちなみに4H-SiCの貫通刃状転位はすべり面にのっていないので簡単には動くことはできません。ピンどめされた状態です。しかしながら、高温では空孔を放出したり吸収したりして動くことは可能ですが、非常に遅い速度で動きます。

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