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コラム 解説

増殖・成長する積層欠陥とMOSFETの特性劣化 (1)
〜 4H-SiCの結晶構造と基底面転位の分解 〜

図1-4はすべり面を理解していただくための模式図です。実際の4H-SiCの結晶では、少し話は複雑です。図1-5 (a)は4H-SiCのA層での基底面転位のすべり面の位置を赤い破線で示しています。すべり面は四面体の底面の三角形の角位置にある3つのC原子と四面体中心のSi原子の間に存在しています。図1-5 (b)はABA’C’の積層構造でのすべり面の位置を示しています。

図1-5(a) 四面体A層中のすべり面の位置。(b) ABA’C’の各四面体層のすべり面の位置。

1単位胞中に4枚のすべり面があます。各すべり面はc/4の間隔で配置されているので(0004)面と呼んでも良いかもしれません。すべり面直下の3つのC原子とすべり面直上のSi原子の位置関係に注目すると、2種類の構造があることがわかります。図1-5(b)の赤い破線のすべり面と青い破線のすべり面の2種類を示します。赤い破線のすべり面はプライムマークのない四面体のA層やB層中のすべり面です。青い破線のすべり面はプライムマーク付き四面体のA’層やC’層中のすべり面です。

赤い破線のすべり面の上下の原子位置を考えてみます。[0001]方向から見た場合、四面体AとBでは、図1-3(a),(b)から分かるように、四面体底面の3つのC原子が作る正三角形の頂角が右を向いた状態、つまり[1100]を向いた三角形の中心にSi原子は位置しています。

次に、青い破線のすべり面の上下の原子位置を考えてみましょう。図1-3(c),(d)から分かるように、四面体A’とC’の場合、四面体の底面の3つの角位置のC原子が作る三角形の頂角が左を向いた、つまり[1100]を向いた三角形の中心にSi原子の投影位置があります。図1-6にすべり面直下のC原子とすべり面直上のSi原子の位置を基底面上に投影した図を示します。

図1-6(a) 四面体A, Bのすべり面、赤い破線の位置の面の上下のC原子とSi原子を基底面に投影した図。(b) 四面体A’, C’のすべり面、青い破線の位置の面の上下のC原子とSi原子を基底面に投影した図。黒丸はC原子位置。白丸はSi原子位置を示す。

図1-6(a)図1-5(b)の赤い破線のすべり面の上下の原子の基底面への投影位置を示しています。グレーの正三角形は四面体の底面の投影を示しています。正三角形の角の一つは右方向[1100]方向を向いています。この図はプライムマークがついていないA層の場合とB層の場合を示しています。図1-6(b)図1-5(b) の青い破線のすべり面の上下の原子の基底面への投影位置を示しています。三角形の向きが逆転しています。グレーの正三角形の角の一つは左方向[1100]方向を向いています。この構造は、プライムマークが付いているA’層の場合とC’層の場合です。この2種類のすべり面の上下の原子配置の違いは、後で基底面転位ループの構造を考察する際に重要な意味を持ちます。ちなみに、立方晶の3C-SiC、 Si、GaAs結晶などでは、(111)すべり面の上下の原子配置は1種類しかありません。

4H-SiCの基底面転位の構造を考察する際に重要な指標は、基底面転位が張り付いているすべり面はどの四面体層中のすべり面か、基底面転位の向きはどの向きか、基底面転位のバーガース・ベクトルの向きはどの向きか、の3つです。以下に、転位の向きとバーガース・ベクトルの関係について簡単に説明します。

基底面転位は線状の欠陥で、曲がったりします。転位の曲がりに伴って転位の向きも当然ですが変化します。一方、転位のバーガース・ベクトルは常に保存されています。曲がっている1本の転位に沿って見ていっても変化しません。バーガース・ベクトルは転位の回りに発生する結晶格子の変位を表しています。転位のバーガース・ベクトルはFS/RHの取り決めに従って求められます。転位の向き、転位のバーガース・ベクトル、FS/RHの取り決めについて、詳細を知りたい方は、以前の解説文放射光トポグラフ法の利用 (2)を参照してください。重要なことを簡単にまとめると、バーガース・ベクトルを求める場合、最初に転位の向きを設定しその後FS/RHの取り決めに従ってバーガース・ベクトルを求めます。転位の向きの設定には任意性がある場合があり、転位の向きを逆向きに設定すると、同じ転位であっても逆向きのバーガース・ベクトルが求まります。転位の向きをどう設定するかが重要になってくる場合があります。この場合、求められるバーガース・ベクトルは何を目的として求めるのかに依存します。

基底面転位の向きとバーガース・ベクトルが平行または反平行の場合は、転位は基底面らせん転位と呼ばれます。基底面転位の向きとバーガース・ベクトルが直角の転位は基底面刃状転位と呼ばれます。基底面転位の向きとバーガース・ベクトルが例えば30度の角度をなす場合、30度基底面転位などと呼ばれます。この場合、転位の周囲の格子歪みは、らせん転位成分と、刃状転位成分の両方を持っていて、基底面混合転位などと呼ぶことがあります。

基底面転位の向きとバーガース・ベクトルの関係を考えてみます。図1-7(a)は基底面転位の向きを紙面の奥方向に設定し、転位の向きに対してバーガース・ベクトルの成分が右側にある場合を示します。この図はb=1/3[1120]の基底面完全転位が[1100]方向へ向いている場合を想定し[1100]方向から見た模式図です。ダングリングボンドを持つ黒丸C原子が余剰原子として転位芯に沿って現れます。このような転位をCコア転位と呼んでいます。バーガース・ベクトルの成分が、転位の向きに対して左側方向にある場合を図1-7 (b)に示します。ダングリングボンドを持つ白丸Si原子が、余剰原子として転位芯に沿って現れます。このような転位をSiコア転位と呼んでいます。FS/RHの取り決めによりバーガース・ベクトルを求めると、すべり面の下側に余剰原子が現れる場合はバーガース・ベクトルは転位の向きから右方向を向きます。逆に、すべり面の上側に余剰原子が現れる場合はバーガース・ベクトルは転位の向きから左方向を向きます。図1-7は単純化したball and stick modelの図です。実際にはダングリングボンド同士が結びつきリコンストラクションを起こしていると推察されますが、ここでは単純な幾何学的なモデルで考えています。

図1-7 バーガース・ベクトルb=1/3[1120]の基底面完全転位の断面モデル。 (a) 基底面Cコア刃状完全転位を[1100]方向から見た模式図。(b)基底面Siコア刃状完全転位を[1100]方向から見た模式図。図中の黒丸はC原子、白丸はSi原子。両方の図で、転位の向きは紙面に垂直で紙面奥方向に向いている。

これらのバーガース・ベクトルと基底面転位の角度関係を[0001]方向から見ると、基底面転位の向きに対してバーガース・ベクトルの成分が右方向成分を持っているときはCコア転位になり、バーガース・ベクトルの成分が基底面転位の向きの左側方向にあるときはSiコア転位になることは理解できると思います。連載(1)では以降の連載で必要になる基礎的な事項を説明しました。このコア構造の話は、 “放射光トポグラフ法の利用・連載(3)”に紹介しています。詳細を知りたい方はこの解説文を参照してください。

4H-SiCの基底面完全転位のバーガース・ベクトルの長さは結晶周期構造の基本単位である単位胞の一辺の長さと同じです。基底面完全転位では基底面上で単位胞1周期ぶんの結晶格子の変位を生じさせます。単位胞1周期ぶんより小さな変位を持つ基底面転位が存在すると、基底面の周期構造の位相がずれたままの状態、つまり積層欠陥、が生じます。4H-SiCでは基底面完全転位のナノ構造を見ると基底面完全転位のバーガース・ベクトルより小さなバーガース・ベクトルを持つ2つの基底面部分転位に分解していて、2つの基底面部分転位の間にショックレー型積層欠陥が存在する構造だということがわかります。連載 (2)では、基底面転位の分解した構造について説明します。

(つづく)

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