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コラム 解説

増殖・成長する積層欠陥とMOSFETの特性劣化 (6)
〜 4H-SiCのMOSFET中の転位組織 1 〜

(A) 基底面転位から貫通刃状転位への変化に付随する短い基底面転位

図6-2(a) 基板の基底面転位が基板表面で終端している状態の模式図。基底面は基板表面と4度の角度を成していることを想定している。(b) エピ層成長によって貫通刃状転位に変換された状態を示している。変換は通常、エピ層/基板の界面より少しエピ層中に入ったところで発生する。

ウエハ中にはある程度の量の基底面転位が存在しています。これらの基底面転位は基板表面に顔を出しています。この状態を図6-2(a)に示します。エピ層成長すると、基底面転位はエピ層中に引き継がれますが、エピ層成長により基底面転位→貫通刃状転位の変換が発生します。外部から応力が負荷されていない場合、転位の周りの格子歪みエネルギーの総和をなるべく下げようとして、新たに成長するエピ層部分では転位は短くなろうとする性質があります。エピ層成長時に転位は成長表面に垂直になろうとします。つまり、基底面転位→貫通刃状転位の変換が発生します。基底面転位は特性劣化を引き起こす原因なので、基底面転位がエピ層部で貫通刃状転位へ変換されることはとても良いことです。

図6-2(b)は基板中の基底面転位がエピ層成長によってエピ層中で貫通刃状転位へ変換される状態を模式的に示しています。エピ層成長が始まると基底面転位は貫通刃状転位へすぐに変換されるわけではなく、エピ層の成長が始まった後、基底面転位は数10ナノメートル程度ほど入ったところで貫通刃状転位に変換されることが論文などで報告されています。このエピ層/基板界面からどの程度エピ層に入ったところで貫通刃状転位に変換されるのかが問題になるのですが、それはバラバラだと推察されます。

4H-SiC基板中の基底面転位は幅の狭いショックレー型積層欠陥を伴う2つの基底面部分転位への分解状態にあります。分解状態での2つの基底面部分転位の間隔はバラバラです。エピ層成長が開始されると、分解状態の基底面転位はまず一本の基底面完全転位に戻り、その後変換すると考えられています。このとき、分解状態の基底面転位が一本の基底面完全転位に戻っていく部分のエピ層中での長さもバラバラだと推察されます。そしてエピ層中では基底面転位部分はある程度の短い長さで残存し、これらの部分はREDG効果を引き起こすと考えられます。

しかしながら、基底面転位から貫通刃状転位へ変換されない基底面転位がある程度の数、観察されることがあります。それらの変換されない転位はb=1/3[1120]のバーガース・ベクトルを持つ基底面転位です。全てのb=1/3[1120]のバーガース・ベクトルを持つ基底面転位が残存するわけではありません。b=1/3[1120]のバーガース・ベクトルを持つ基底面転位の一部のものが、基底面転位→貫通刃状転位の変換を起こしません。放射光トポグラフ法で観察すると、それらの変換されない基底面転位はL字状、または逆L字状の形状をしていて、これらの転位は界面転位と呼ばれています。基底面転位→貫通刃状転位の変換にもたついてしまった一部のb=1/3[1120]のバーガース・ベクトルを持つ基底面転位は、変換されることなくエピ層成長過程でエピ層部分に発生する応力の緩和の仕事を担わされます。このときのエピ層成長過程でエピ層部分に発生する応力とは、すでに述べたウエハが高温でわずかにお椀状に変形していることによってエピ層部分に発生する応力です。

蛇足的な事を述べると、フランク型積層欠陥や、バーシェイプ欠陥、多層枚のショックレー型積層欠陥なども基板からエピ層へ受け継がれます。X線トポグラフ法では、これらの積層欠陥は、エピ層成長に伴い、積層欠陥の幅が広がっていく傾向にあり、これらの積層欠陥は厄介です。大元の単結晶作製時にこれらの欠陥の密度を下げる工夫も必要かと思います。

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