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コラム 解説

増殖・成長する積層欠陥とMOSFETの特性劣化 (6)
〜 4H-SiCのMOSFET中の転位組織 1 〜

(B) 界面転位の形成

図6-3  (a) エピ層成長前の基底面転位の状態。b=1/3[1120]の基底面転位が基板表面のa点で終端している状態の模式図。(b)エピ層成長が始まって、基板中のb=1/3[1120]の基底面転位が、貫通刃状転位へ変換されず、界面転位を形成し始めている状態。基底面らせん転位bc部が赤矢印方向に移動し、Cコア刃状転位ab部が延伸していく。(c) エピ層成長が進みL字状の界面転位abcが形成されている。 (d) 逆L字状の界面転位defが形成されている。基底面らせん転位de部が赤矢印方向へ運動しCコア刃状転位ef部が延伸する。

図6-3に界面転位形成の模式図を示します。この図の(c),(d)は、“放射光トポグラフ法の利用(2)”で示された図2-3と同じ内容の図です。図6-3 (a) はエピ層成長前の基底面転位の状態。b=1/3[1120]の基底面転位が基板表面のa点で終端している状態を示しています。この基底面転位がのっている基底面を破線で示しています。図6-3 (b)はエピ層成長が始まって、L字状の界面転位abcが形成されはじめている状態を示しています。

この界面転位の尻尾の部分の基底面らせん転位bc部 はエピ層成長中に基底面上を赤色の矢印方向へ動き、この動きによりCコア刃状転位abを延伸させ、エピ層にかかる応力の緩和の一部を担います。(c)はエピ成長が進みL字状の界面転位の形成が明確になっている状態です。転位abcの向きはエピ層中では時計回の向きを想定しています。(c)のL字状界面転位の基板部分では転位の向きは結晶の奥から表面、(d)の逆L字状界面転位の基板部では表面から結晶の奥方向と設定します。エピ層部分では、(c),(d)どちらも時計回り方向に転位の向きを設定しています。転位のバーガース・ベクトルbを設定する場合、転位の向きξを設定し、その後bをFS/RHの取り決めに従って求めます。これらのξbの設定に関しての解説は放射光トポグラフ法の利用(2)で説明しています。興味がある人は読んでいただくとありがたいです。これらの設定では、(c),(d)どちらもb=1/3[1120]の基底面転位です。

図6-3(c)のL字状界面転位abcの部分は、この連載(3)の図3-3(a)の基底面転位ループの6時から9時の部分です。つまりA’層かC’層かに存在しているb=1/3[1120]の基底面転位です。図6-3(c)のbc部はマクロ的には基底面らせん完全転位ですが、ナノ構造を見るとSiコア部分転位とCコア部分転位の2つの部分転位に分解しています。Siコア30度部分転位はCコア30度部分転位の左側に位置しています。この状態では、応力を緩和するためにSiコア部分転位が左方向に動きその後からCコア部分転位がついてくる状態です。bc部が左へ動くことによりCコア刃状転位abが延伸され、エピ層部に発生する応力の緩和を担います。図6-3(d)の逆L字状の界面転位defの部分は、この連載(3)の図3-3(b)の基底面転位ループの3時から6時の部分です。つまりA層かB層かに存在しているb=1/3[1120]の基底面転位です。図6-3(d)のde部もナノ構造としては、2つの部分転位に分解していて、Siコア部分転位はCコア部分転位の右側に位置しています。つまり、図6-3(c)の転位bc部分とは配置が逆になっています。Siコア部分転位が右方向に動きその後からCコア部分転位がついてくる状態です。

要約すると界面転位がA’層やC’層に存在している場合、L字状の界面転位を形成し、界面転位の尻尾部は左方向、つまり[1100]方向に動くことによって、Cコア刃状転位部abを延伸させエピ層の塑性変形を担います。界面転位がA層やB層に存在している場合、逆L字状の界面転位を形成し、界面転位の尻尾部は逆方向の右方向、つまり[1100]方向、に動くことによってCコア刃状転位部efを延伸させエピ層の塑性変形を担います。ちなみに、重要なことを少しだけ予告しておくと、図6-3(c)の転位bc部分は、連載(4)の図4-2(a)の構造です。図6-3(d)の転位de部分のξbの両方を逆方向に設定すると、連載(4)の図4-2(b)の構造です。

トポグラフ法で観察すると、これらのL字状、逆L字状の界面転位はウエハの半径の約1/2の円形領域の内側で主に発生します。b=1/3[1120]のバーガース・ベクトルを持つCコア刃状転位が界面転位として、ウエハの半径の約1/2の円形領域の内側で発生することと、エピウエハが応力によりわずかに凹状に塑性変形する観察事実とは矛盾しません。Zhangさんたちは、高温ではウエハは中心付近の温度が高く、ウエハ周辺付近では温度が低い状態になっていて、これが、ウエハの半径の約1/2の円形領域の内側でb=1/3[1120]のバーガース・ベクトルを持つ基底面Cコア刃状転位組織が形成される原因だと考察しています。[X. Zhang et al., Mat. Sci Forum Vol. 679-680 pp306 (2011)]。L字形状や逆L字形状の形状のみではなく、ウエハの場所によっては、Cコア刃状転位部分が短くクランク状のb=1/3[1120]の基底面転位や、ほぼ単なるb=1/3[1120]の基底面らせん転位もそれなりに観察されます。

また、b=1/3[1120]のバーガース・ベクトルを持つ基底面Cコア刃状転位は、界面転位とは呼ばれているものの放射光X線トポグラフ法による観察では、abやefの、Cコア刃状転位部は、必ずしもエピ層/基板界面近傍に出現するわけではなく、エピ層中のさまざまな深さで出現することが実験的に確認されています。このことは、エピ層成長に伴いエピ層に負荷される応力を緩和させるために、一旦貫通刃状転位に変換されていた転位が、エピ層成長中に基底面転位に戻り界面転位を形成する可能性も示唆していると考えられます。

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