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コラム 解説

SiCのフランク型積層欠陥 (2)
〜 ショックレー型積層欠陥の記述について 〜

ショックレー型積層欠陥の構造をアルファベット・ノーテーションで記述する

次に、アルファベットのノーテーションのみで同じショックレー型積層欠陥の構造を記述してみます。まず下側の層を固定して、上側に四面体を積み木のように積み上げていくやり方で表記します。結晶を下から上方向へ見てABA’C’のB層の部分の四面体にショックレー変位を与えると、図2-3(a)のように表記できます。これは単に、図2-2(b) の四面体に与えたアルファベットのノーテーションを書き出したのみです。図2-3(a)の右側の図はショックレー型積層欠陥が形成された状態です。図2-3(a)の右の図は完全結晶の状態で、積層の順番はABA’C’なのですが、既に図2-3(a)の右側の図では積層欠陥より上側ではBCB’A’の積層の状態に変わっています。

このような記述の仕方に遭遇すると、図2-3(a)の縦方向の破線部分に格子欠陥が存在しているのではと考える人がいますが、破線部分に格子欠陥はありません。積層欠陥の上下の変位は図2-1で示されているように部分転位によって生じているわけですが、四面体の積み木を積み上げるモデルで考えている場合、その積み木は変形しやすい柔らかい弾性体で作られていて、それぞれの四面体の積み木の角は接着剤で接着されていると想定してみます。そうすると図2-3(a)の破線部の右側と左側では柔らかい弾性体の四面体が弾性変形して連続的に繋がっていて、結晶格子の不連続な構造は存在せず、縦の破線部には格子欠陥は無いという状態を考えると、理解できると思います。

図2-3 完全結晶ABA’C’の積層状態の完全結晶にショックレー型部分転位を導入して積層欠陥を作成した例。B層の四面体がショックレー変位を起こした状態を表現している図。(a),(b)はそれぞれ同じショックレー変位を表現している。(a)は下側の土台を固定して、積み木のように四面体を上に積み上げてショックレー型積層欠陥を作成した状態。(b)は上側を固定して下側に四面体の積み木を瞬間接着剤で接着しながら下側へ積層を伸ばして行ってショックレー型積層欠陥を作成した状態。

図2-3(b)は上側に完全結晶を作っておいて、上側から下方向へ四面体の積み木を瞬間接着剤で接着して吊り下げて行って作ったショックレー型積層欠陥の構造です。B→B’の変位では四面体は向きを変える変位です。この変位では、四面体の頂点の炭素原子と四面体中心のSi原子は変位せずに上の四面体層に接着剤で固定されていますが、四面体の底面の炭素原子はショックレー変位します。さらにこの積層欠陥の下側の積み木もB→B’の変位に従って平行に変位します。各四面体層は同じ方向に平行移動しているだけで、四面体の向きは変えません。そして図2-3(b)の積層欠陥の下側の破線部分に格子欠陥は存在していません。破線部分では四面体が弾性変形しているというモデルです。

図2-3 (a),(b)のそれぞれの図の右側の2つの積層の順番の表記は異なった積層の順番のように見えますが、例えば図2-3(b) の右側の積層状態の表記のアフファベットのAをBに、BをCに、CをAに、置き換えると図2-3(a) の右側の積層の表記と一致します。図2-3(b) で、右側の図で、AをBに、BをCに、CをAに、置き換える作業は、積層欠陥の下側の積層の状態を図2-3(a)の積層欠陥の下側の表記に揃える作業です。そうすると同じアルファベット表記になります。

図2-3(a)(b)は同じ欠陥構造を示しているにもかかわらず、下から上方向に見た時と、上から下方向に見た時では、異なるアルファベット・ノーテーションの表記になることは理解できたと思います。一方、別の表現の仕方もあります。完全結晶のABA’C’…の積層ではプライム無しが2回続き、プライム付きが2回続きます。この状態を、…,2,2,…と記述することにします。これはZhadanovの表記法と言われているようです。図2-3(a),(b)の欠陥構造は、2,2,1,3,2,2と表記することができて、(a)(b)は同じ表記で示されていることがわかります。ショックレー型積層欠陥1枚のみの場合は、…,2,2,1,3,2,2,…または…,2,2,3,1,2,2,…の構造が現れます。…,2,2,1,3,2,2,…または…,2,2,3,1,2,2,…の構造がPLスペクトルではショックレー型積層欠陥1枚の特徴的なスペクトルの形状を示すと考えられています。断面をSTEMなどで観察して、…,2,2,1,3,2,2,…または…,2,2,3,1,2,2,…が観察されれば、それは1枚のショックレー型積層欠陥の可能性があります。この表記法で記述すると煩雑な問題を回避できて簡単に表現できますが、具体的な情報が抜け落ちることになります。

ショックレー型部分転位のコア構造

連載“その(1)”で示されたSiCの積層の表記法を使ってショックレー型積層欠陥がどのように記述されるかを考察しました。次に、この表記法を使ってショックレー型部分転位の構造を考えると、また少し複雑な事情がある事に気がつきます。

図2-1で書いたように、ショックレー型積層欠陥の周りには変位は存在していますが、格子歪は存在していませんので、格子歪の存在を考慮する必要はなく積層の構造を考察することができました。これまで述べてきた記述の仕方は簡単に表現できるので、これは便利です。ところが、ショックレー型部分転位の周りには格子歪が存在しています。簡略化した幾何学モデルやその表記法ではこの格子歪を表すことができません。このようなアルファベットの表記法は転位のコア構造などの格子歪みが伴うような時の構造の記述には適していません。しかしながら、簡単な記述のやり方でとりあえず考えてみましょう。実際の結晶ではショックレー型部分転位の上下に格子歪が存在しているのですが、連載“その(1)”で示されたSiCの積層の記述の仕方を使うと、結晶の下側から上方向に積層の構造を見て行くと図2-4(a)に示すように、部分転位の下側には格子歪は存在せず、部分転位をまたいで上側にやってくると格子歪による変位が存在しています。また、上側から下方向に積層を見て行くと、図2-4(b)に示すように、部分転位の上側には格子歪は存在せず、転位の下側に格子歪が存在しています。

図2-4 ショックレー型部分転位とショックレー型積層欠陥の構造のモデル図。(a)は積層欠陥の下側では剛性状態の完全結晶を想定し、部分転位の上側で弾性的膨張変形を起こして、積層欠陥の上側結晶が変位しているモデル。(b)は積層欠陥の上側は剛性の完全結晶で、部分転位の下側に弾性的圧縮領域が存在して、積層欠陥の下側結晶が変位しているモデル。

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