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コラム 解説

SiCのフランク型積層欠陥 (3)
〜 4H-SiCの欠損したフランク型積層欠陥 〜

4H-SiCの1ユニットセルには4種類の層が存在しています。それらの4層のうち1層を消去する4種類のフランク型積層欠陥の構造を考えます。図3-4の方法でフランク型積層欠陥を作成すると図3-7に示す4通りの部分転位のコア構造が現れます。それぞれの積層構造にアルファベットの(a),(b)などのノーテーションをつけていますが、便宜上の名前をさらにつけました。名前を付けている理由は、これらの構造を議論するときに、どういう作り方で作ったかを名前で示しておくと便利だからです。

図3-7 ショックレー変位を伴わないフランク型積層欠陥およびフランク型部分転位の構造。4種類の異なるコア構造が存在する。それぞれのコア構造に便宜上の名前をつけています。1AB→B’の1は1番目の方法(図3-4で示した方法)で作成したコア構造を示します。1AB→B’のAはA層の欠損を示します。1AB→B’のB→B’は消去したA層の上の層にB→B’のショックレー変位が存在することを示しています。1BA→B’BのアンダーバーはB層を消去してその下側のA層にA→B’のショックレー変位を加えることを示しています。緑色矢印はショックレー変位、赤文字は変位後のノーテーションを示しています。

4種類のフランク型部分転位のコア構造は欠損する四面体層がそれぞれ異なるためコア構造自体に違いがあることになっていますが、フランク型積層欠陥をまたいだ積層構造そのものは、同じものが出現しています。フランク型積層欠陥をまたいだ積層構造のみに着目すると(a)= (b)、また、(c)= (d)になります。つまりフランク型積層欠陥をまたいだ積層の順番は2種類のみです。(a)ではプライム付きの四面体層が5層続きますが、(c)ではプライム無し四面体が5層続きます。この2つの異なる積層の順番は、一見異なる積層構造のようにも見えますが、元々の4H-SiCの完全結晶では(1100)面は映進対称面なので、 (a)や(b)の欠陥構造に映進操作を行うと(c)や (d)の欠陥構造が現れます。この映進操作は、(1100)面で鏡映操作を行い4H-SiCの結晶をc/2だけ上方向に変位させる操作を意味しています。このことを考えると図3-7のフランク型積層欠陥の作成方法は4種類も考える必要はなく(a)のみを考えれば十分ということになります。冗長な考察を行っているので、とりあえずは4種類すべてを表にしておきます。また、図3-7では4つの層がそれぞれ消去される場合を示しています。つまり、4種類のフランク型部分転位のコア構造も同時に示していますが、これらのコア部では実際にはリコンストラクションを引き起こして、(a)と(b)は最終的に同一のコア構造、(c)と(d)は同一のコア構造になっている可能性もあります。

プライム無しの四面体層の数とプライム付きの四面体層の数で表記するやり方、Zhadanovの表記法で記述すると、図3-7の4種類のフランク型積層欠陥は、…,2,2, 5, 2,2,…と表記されます。図3-7の4種類のフランク型積層欠陥を模式図で示すと、図3-8のように示すことができます。5層同じ向きを向く四面体層がPLスペクトルでは、特徴的なスペクトルの形状とピーク位置を示すと考えられています。

図3-8 ショックレー変位を伴わないフランク型積層欠陥の [1120] 方向から見た模式図。積層欠陥部での積層の状態を見る限り、(a)1AB→B’と(b)1BA→B’の区別はつかない。フランク型部分転位のコア構造を観察すると区別がつく可能性がある。赤い破線は四面体層が欠損した位置。同様に(c)1A’C’→Cと(d)1C’A’→Cの区別はつかない。また、左の図と右の図は共に映進対称の関係がある。

まとめ

連載その(3)を簡単にまとめると、ショックレー変位を伴わない欠損したフランク型積層欠陥の積層構造は、 …, 2,2,5,2,2,…だとわかりました。完全結晶の構造…, 2,2,2,2,2,…から1層消去すると、…, 2,2,1,2,2,…になりますが、この..,1,…の層にショックレー変位を与えて積層欠陥の上下の結晶を繋げます。..,1,…の四面体層にショックレー変位を与えると、四面体の向きが変わりますので、この…,2,1,2…の1の層の四面体の向きは、その上下の層と同じ向きになり、最終的に、…,5,….の積層構造が出現します。冗長な説明をしたのに、結論は単純で何それ!と言われそうです。発散気味の詳細な議論の割に単純な結論に収束したと善意に理解してください。TEMやSTEMなどの実験で積層欠陥の断面を撮影して、同じ向きの四面体層が5層続いていると、それはショックレー変位無しのフランク型積層欠陥かもしれません。さらにフランク型部分転位のコア部分をSTEMなどで観察すると、どの四面体層が欠損しているかが分かり、図3-7の4つの積層欠陥の区別がつくかもしれませんし、区別がつかないかもしれません。

以前我々が調べた4H-SiCのフランク型部分転位の、バーガース・ベクトルはb=c/4[0001]になっていているものでした。(Tochigi et al., Philos. Mag. 97 657 (2017)) しかし発表された論文の中には、b= ±c/4[0001] +a/3<1100>のようにショックレー型変位がついてくるフランク型部分転位やフランク型積層欠陥の観察例も報告されています。例:Benamara et al., APL 86. 021905 (2005)。4H-SiCでは、「フランク型積層欠陥の変位ベクトルを調べました」という論文の数が少ないので、ショックレー変位なしの純粋なフランク型積層欠陥とショックレー変位つきのフランク型積層欠陥がどの程度の割合で現れるかはわかりません。この割合は、単結晶の作製手法などにも依存するかもしれません。Benamaraさんたちは、キャロットに付属するフランク型積層欠陥を調べているので、ショックレー変位つき積層欠陥は、キャロットに付属するフランクの積層欠陥に特有なものだという可能性もありますが、そうでない可能性もあります。

また、4H-SiCとは構造は異なりますが2H-GaNではフランク型積層欠陥の変位ベクトルはR= ±c/2[0001] の場合とR= ±c/2[0001] +a/3<1100>の2種類が報告され、両者ともそれなりの頻度で現れているようです。次回の連載では、4H-SiCのR= c/4[0001] +a/3<1100>のフランク型積層欠陥の構造について考察し、ショックレー変位を伴わないフランク型積層欠陥との違いを整理します。

(つづく)

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