3-1.はじめに
この連載は、SiCパワエレ研究者が、研究組織の外部にg・b解析法で透過型電子顕微鏡観察を依頼する場合に、観察依頼の仕様をどうすべきかを考察しています。また、一方で、4H-SiCの格子欠陥観察の経験の少ない透過型電子顕微鏡担当者が、実際の観察作業を円滑に実行しやすいように、具体的な観察作業をマニュアル的に示すことを目的とします。
前回の連載(2)では、実際の4H-SiCの転位をg・b解析法で [1120]方向への断面観察について考察しました。連載(3)では、 [1100]方向への断面観察について考察します。そして[0001]方向からの転位の観察について考察します。また、転位の観察像を綺麗に撮影するためのウイーク・ビーム法について解説します。
3-2. [1100]方向の断面観察
[1100]方向の断面試料の観察を考察します。図3-1 (a)は[1100]の観察方向とウエハの形状を示しています。緑色の矢印が観察する方向です。この方向での観察は、デバイス構造の観察などによく行われます。図3-1(c)は[1100]方向から15°右方向に観察方向を示しています。実際には、この方向への観察は行いません。この方向は、[1100]方向と[1210]方向の中点の方向です。この方向への観察を行う試料を作り、[1100]方向と[1210]方向の観察を行います。図3-1(d)は[1100]方向から30°左方向に観察方向を変えた時の[1210]方向を観察方向とする際の観察方向です。図3-1 (b)はこれらの観察方向の関係を示しています。[1100]方向の断面観察の場合、例えば[1210]方向への観察もついでに行うことが必要です。その理由は前回の[1120]の場合と同じような理由です。
[1100]方向へ向いた時の回折図形を図3-2に示します。この回折図形は、図2-4で示されている回折図形とよく似た図形です。この回折図形からわかるように、g=±0004,g=±1120, g=±1124は利用できそうです。

g=±1120, g=±1124の場合の各転位のコントラストの有無の表を表3-1、表3-2に示します。これらの表は、表2-4、表2-5と類似の表です。g=±0004の場合は、表2-2に既に示されています。
表3-1 g=±1120の回折条件での各種転位の観察の可否。○印のものは観察可能。赤いX印のものは観察不可な転位。青三角は基本的には観察不可だが、転位の向きに依存して刃状転位成分のコントラストが観察可能な場合がある。

表3-2 g=±1124の回折条件での各種転位の観察の可否。○印のものは観察可能。赤いX印のものは観察不可な転位。青三角は基本的には観察観察不可だが、転位の向きに依存して刃状転位成分のコントラストが観察可能な場合がある。

表3-1、表3-2より理解できるように[1100]方向の近辺の断面観察では、基本的にb=±a/3[1100]の基底面部分転位は観察できません。次にこの[1100]方向から30°観察方向を変えて、[1210]方向の観察を考えてみます。 [1210]方向の回折図形を、図3-3に示します。

図3-3で示されているように、この方位の近くで、g=±0004,g=±1010, g=±1014は利用できそうです。g=1010, g=1014を使った場合の各転位のコントラストの観察の可否を表3-3、表3-4に示します。この表は、連載(2)で示した表2-1、表2-3と似た表です。表3-3、表3-4を見ると[1210]方向の近辺の断面観察では、基本的にb=±1/3[1210]の転位は観察されないことがわかります。また一方で、b=±a/3[1100]の基底面部分転位は観察可能です。
表3-3 g=±1010の回折条件での各種転位の観察の可否。○印のものは観察可能。赤いX印のものは観察不可な転位。青三角は基本的には観察されないが、転位の向きに依存して刃状転位成分のコントラストが観察可能な場合がある。

表3-4 g=±1014の回折条件での各種転位の観察の可否。○印のものは観察可能。赤いX印のものは観察不可な転位。青三角は基本的には観察されないが、転位の向きに依存して刃状転位成分のコントラストが観察可能な場合がある。

以上の考察の結果を総括すると、[1100]方向の近辺で観察するとb=a/3[1100]の基底面部分転位は基本的に見ることはできず、そこから30°離れている[1210]方向の近辺での観察では、b=a/3 [1210]の基底面転位は基本的には見ることはできません。包括的に観察するためには、[1100]方向と、そこから30°離れた[1210]方向の両方で観察しなければなりません。