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コラム 解説

放射光トポグラフ法の利用 (3)
〜 4H-SiCの転位の整理 〜

基底面転位の拡張

基底面完全転位のバーガース・ベクトルはb=±1/3[1120(]、b=±1/3[1210]、b=±1/3[2110]の6種類です。上の図3-2の説明でも述べましたがSiCの基底面転位はグライド・セット転位と呼ばれる転位です。b=1/3[1120]を例に考えるとこのグライド・セット転位は、b1=1/3[0110] とb2=1/3[1010]の短いバーガース・ベクトルを持つ2のショックレー型部分転位に分解した状態で実際には存在しています。完全転位の場合、バーガース・ベクトルは反復する結晶構造の1周期分の長さなので、転位部で結晶構造の1周期分の余剰か、欠損が存在し、転位から離れると通常の結晶構造に戻ります。部分転位の場合、バーガース・ベクトルb1が結晶構造の1周期分の長さより短いので、部分転位が出現すると、反復する結晶構造に位相のずれが生じ、そのためショックレー型積層欠陥が生成され、積層欠陥を引きずることになります。引きずっているショックレー型積層欠陥をターミネートするために別のショックレー型部分転位b2が必要になります。

物事を簡略化した簡単な話で考えるとします。等方的弾性体モデルでのらせん転位の周囲の格子ひずみのエネルギーはバーガース・ベクトルの2乗の量に比例します。このことを考えると、長いバーガース・ベクトルを持つ転位は、複数の短いバーガース・ベクトルを持つ転位に分解した方が、歪みエネルギーを低くすることが可能ではないかという話になります。小さな部分転位に分解する前の完全転位の周りの格子の歪みエネルギーと、分解後の複数の部分転位の周りの各格子歪みエネルギーと積層欠陥エネルギーの和を比較してどちらがエネルギー的に低いかの話です。ちなみに積層欠陥エネルギーとは、完全結晶中に積層欠陥を導入するのに必要なエネルギーとして定義されていて、4H-SiC結晶ではショックレー型積層欠陥エネルギーは低いと見なされています。4H-SiCの基底面転位は、幅の小さなショックレー型積層欠陥と2つショックレー型部分転位に分解していていると考えられていて、実際に透過型電子顕微鏡でもそのように観察されています。

図3-3 b=1/3[1120]の基底面完全転位がショックレー型積層欠陥と2つのショックレー型部分転位b1=1/3[0110] とb2=1/3[1010]に分解し転位が拡張しているところの模式図。

図3-3b=1/3[1120]の基底面完全転位がショックレー型積層欠陥を伴う2の部分転位b1、b2分解している状態、つまり拡張した状態の模式図を示します。この図は[0001]方向から見た状態で、すべり面の下側に存在しているC原子を黒丸で示し、すべり面の上側に存在しているSi原子を白丸で示しています。この図では、すべり面の上下のC原子面とSi原子面の2層のみを示しています。図中のグレーの部分がショックレー型積層欠陥部です。転位線の向きを[1120]とするとb1=1/3[0110]のバーガース・ベクトルは左向き成分を持っているので、部分転位b1はSiコア刃状転位の成分を持つ30°混合部分転位、b2=1/3[1010]のバーガース・ベクトルは右向き成分を持っているので、部分転位b2はCコア刃状転位の成分を持つ30°混合部分転位であることがわかります。30°転位の30°はバーガース・ベクトルと転位の向きのなす角度を示しています。同じバーガース・ベクトルの基底面転位でも、六方晶4H-SiCの結晶構造では2種類の拡張の仕方があることがわかります。この話は上記の転位の向きをどう設定するかの話の時に、図2-3(a),(b)に示した2種類の異なる形状の界面転位A, Bの話でも触れました。これについて、すでに説明していて、詳しくは4H-SiCの積層欠陥の解説を見てください。

基底面転位拡張の現象は、バイポーラーデバイスの順方向特性劣化の現象と関連しているので、この解説文では基底面転位の拡張した構造について少し詳しく説明しました。バイポーラーデバイスの順方向特性劣化現象も現在はデバイスメーカー各社の工夫により対策がとられるようになっています。

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