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コラム 解説

SiCのフランク型積層欠陥 (7)
〜 ショックレー変位を伴う余剰フランク型積層欠陥 〜

図7-5 純粋な余剰フランク型積層欠陥とショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥の関係、およびのショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥の関係の整理。

積層欠陥の構造

純粋な余剰フランク型積層欠陥の構造は…2,2,1,4,2,2…または…2,2,1,4,2,2…でした。この積層構造にショックレー変位を導入するとショックレー変位付きフランク型積層欠陥になります。導入する層の位置に依存して、…,2,2,3,2,2,……か、….,2,2,1,1,1,2,2,…の積層構造になると考えられます。

Tsuchida さんたちはキャロットに付属するフランク型積層欠陥の断面をTEMで撮影しています。 …,2,2,3,2,2,….の構造が実際に観察されていて、ここで考察された構造は実際に観察されていることがわかります。( Tsuchida et al., Phys. Status Solidi B246 1553 (2009)のFig. 4(a))。

顕微PL法ではバーシェイプ欠陥と呼んでいる欠陥はよく見かける欠陥であることは以前に述べました。今回、構造を考察したショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥は、バーシェイプ欠陥の中でも構造が簡単なものと考えられます。現在まで、実験的に観察されたバーシェイプ欠陥の構造を変位ベクトルも含めて系統的に調べ整理し報告した例はほとんどありません。

かつて、我々が調べた欠陥で、放射光X線トポグラフ法では余剰なフランク型積層欠陥の像を示しているが、PLスペクトルでは欠損したフランク型積層欠陥のものと同じものを示すちょっと変な積層欠陥がありました。断面をSTEMで観察すると、余剰なフランク型積層欠陥に3枚のショックレー型積層欠陥が張り付いていて、…,2,2,2,3,3,5,2,2,…の積層構造を示すものでした。これは構造が簡単な部類のバーシェイプ欠陥と考えられます。この積層構造の5の部分が、純粋な欠損したフランク型積層欠陥の….,2,2,5,2,2,…の5と同様のピークをPLスペクトルで出すため、このような変な積層欠陥と認識されました。さらに3枚のショックレー型積層欠陥がショックレー変位を打ち消して、変位全体としては、ショックレー変位を伴わない余剰なフランク型積層欠陥の像として放射光X線トポグラフ法では観察されています (Tochigi et al., Philos. Mag. 97 657 (2017))。 この実験結果からわかることは、PLスペクトルのみでは正確に欠陥を分類することは難しく、またX線トポグラフ法のみでも正確に欠陥を分類することは難しいということです。

バーシェイプ欠陥の付属する多数枚のショックレー型積層欠陥の発生には何らかの発生メカニズムが関与していることも想像されます。バーシェイプ欠陥はそれなりの頻度で観察されますが、これらの欠陥の発生メカニズムや抑制法などについて現在まで研究がなされていないように思います。実験的に調べなければいけないことは、まだたくさんあります。

基底面での転位の分解

4H-SiCの貫通転位は、次の4種類の存在が知られています。

 (a) b= a/3<1120> 貫通刃状転位。

 (b) b= c<0001>  貫通らせん転位。

 (c) b= c<0001> + a/3<1120> 貫通混合転位と呼ばれる事がある。

 (d) b= c<0001> + a<1100> この転位は貫通キラー欠陥などと呼ばれていたことがある。

(a) の転位が基底面に沿って走っている場合、基底面転位と呼ばれていて、これは通常2本のショックレー部分転位に分解しています。

(b) の転位が基底面に沿って走っている場合、4つの純粋なフランク型部分転位に分解していると考えられます。それらの4つの純粋なフランク型部分転位のうち両端の2のフランク型部分転位のコア構造は、連載のその(3)と(6)で考察した欠損したフランク型部分転位と余剰なフランク型部分転位のコア構造を持っていると考えられます。

(c) の場合話は複雑です。可能性の一つは、6本の部分転位に分解する可能性です。そのうち2本はショックレー型の部分転位で、残り4本はショックレー変位の無い純粋なフランク型部分転位です。 もう一つの可能性は、4本の部分転位に分解し、そのうちの2本はショックレー変位の無い純粋なフランク型部分転位で、残りの2本はショックレー変位を伴うフランク型部分転位です。この2種類のどちらも出現しているのかもしれません。その割合はどうなっているのかも不明です。

(d) の場合も話は複雑です。8本の部分転位に分解している可能性もあります。そのうちの4本はショックレー型部分転位、残りの4本はショックレー変位なしの純粋なフランク型部分転位です。また、別の可能性も考えられます。4本の部分転位に分解している可能性もあります。この場合は4本ともショックレー変位付きのフランク型部分転位です。その他の場合があるかもしれません。これらは整理すべき課題です。

これらのことは、現在まで系統的には調べられていないと思います。(b),(c),(d)の欠陥はバーシェイプ欠陥の形成と色々な関わりがあるかもしれません。更なる研究に期待したいところです。これらの欠陥を整理し、それぞれについての発生原因の整理を行えば、抑制法の提案も期待されると思います。

今回で、4H-SiCのフランク型積層欠陥の構造についての考察は終了します。4H-SiCのフランク型積層欠陥の特徴を確認するために、次の回で2H-GaNのフランク型積層欠陥の構造との比較を行い、4H-SiCの特徴をまとめます。

(つづく)

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