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ワイドギャップ半導体としてのダイヤモンド (1)
〜 究極のワイドギャップ半導体 期待と限界 〜

図2 絶縁体/半導体接合における電界強度と界面からの距離の関係に対する半導体誘電率εsの影響。青実線がεsが大きい場合、赤実線がεsが小さい場合を示す。εsが小さくなることによって、絶縁体中の電界強度Eoは減少、半導体中の電界強度Esは増加する(関係式①, ②を参照)。電界強度の深さ方向への積分値が全体の耐電圧となるため、耐電圧を両ケースで等しい(関係式③を参照)とすると、空乏層厚dは減少する。

 また、誘電率でもダイヤモンドは他の材料に比べてかなり小さな値を示す。この特性はドーパントの活性化エネルギーを大きくするのに加え、デバイス設計上でも他とは大きく異なる状況を生み出す。MOS FETの耐圧構造を考える際、絶縁膜/半導体界面に垂直方向の耐圧全体は絶縁膜と半導体ドリフト層で分担することになるが、半導体の誘電率が低いと、絶縁膜の分担する割合が低く、半導体ドリフト層の分担割合が高くなる(図2参照)。通常の半導体にとってはこのような半導体中の電界が高まる状況は好ましからざる問題であるが、半導体側の絶縁破壊電界が十分大きければ、その分絶縁膜の耐圧性能にマージンが生まれ、デバイス設計上の自由度が増すと考えられる。一方で、デバイス周辺部の耐圧設計に関しては、界面付近で半導体中の電界が上昇する結果、周辺構造の端部等で回り込んだ等電位線がより集中することになって絶縁膜側で絶縁破壊が起こりやすくなる(図3参照)。また、界面に水平方向での空乏層制御のプロセス感度が高まり、周辺耐圧構造を含むチップ面積が増大したりもする。いずれにしても、実用上はそれらを総合的に勘案しなければならず、SiやSiCデバイスで実績のある設計指針とは大きく異なるものが求められることになりそうである

図3 MOS構造におけるゲート端での等電位線の状況に対する半導体誘電率εsの影響。ゲート端直下では、一般的に曲率半径が小さいために等電位線の間隔が狭くなるが、半導体層の誘電率εsが小さくなると、半導体中の電界強度が増加して等電位線の間隔が狭くなり(見かけ上、絶縁体/半導体界面に引き寄せられる)、それに伴ってゲート直下で等電位線の密度が増加し、近辺の電界強度が更に増加する。

 一方、結晶構造の観点でもダイヤモンドは他のワイドギャップ半導体と一線を画す材料である。化合物半導体であるワイドギャップ半導体の多くは、ウルツ鉱型構造に代表される六方晶系の構造(Ga2O3は三方晶系や単斜晶系)を取るが、ダイヤモンドは元素半導体であると共に最も対称性が高い結晶構造として知られる立方晶のダイヤモンド構造を取る。この状況は、半導体の王道であって完全結晶に近いものが得られているSiと同じであり、結晶欠陥が少ない結晶を実現する上では大きな利点となると考えられる。

 このように、ダイヤモンドは電気的、熱的、構造的にも理屈の上では最強クラスの半導体材料として構わないであろう。しかし、その優位性は「理想的な材料物性」の段階で成立していても、実際のデバイスへ変換する段階で数多くの困難に直面する。

3. 特性指数(Figure of Merit : FOM)とオン抵抗スケーリング

 パワー半導体性能を議論する上で、表2に示す各種の性能指数(Figure of Merit : FOM)は最重要な指標である。Johnson’s FOMやKey’s FOMが知られているが、特にBaliga’s Figure of Merit(BFOM)[1]は高耐圧デバイスにおける理論性能限界を表す指標であり、

BFOM \(\propto \epsilon \: \mu \: {E_{br}}^3\)

によって与えられる。ここで ε は誘電率、μ はキャリア移動度、Ebr は絶縁破壊電界である。特に重要なのは、絶縁破壊電界が三乗で効く点である。これは、材料間の性能差の大部分がEbr によって決まることを意味している。

さらに、ドリフト層比オン抵抗 $R_{on,sp}$ は

$R_{on,sp} \propto {V_{br}}^2 / (\epsilon \: \mu \: {E_{br}}^3) : V_{br}$ は耐圧

で表される。つまり、高い絶縁破壊電界を持つ材料ほど、同じ耐圧でより低いオン抵抗を実現できる。SiCがシリコンに対して圧倒的優位性を持つ理由もここにある。そしてダイヤモンドは、さらにその先に位置している。

 但し、この性能指数を用いた議論にはいくつかの注意点があることを喚起しておきたい。まず、これらの性能指数を計算する上での物性定数であるが、特に新たに注目されるようになった材料では、特に精密な測定が行われているケースが希である。SiCやGaNですら、研究の黎明期に極めて小さい結晶を用いて測定された、或いは推定された値が今でも参照されることが多く、近年になって従来の値とは大きく異なる精密な値が初めて測定された例もある。また、物性定数としての値も、不純物濃度や温度などの条件値に依存することが知られており[9]、性能指数として計算する際にどのような条件での値を用いるかで性能指数の値が変わってくる。また、母体の結晶としては暗黙的に完全結晶を想定しているが、実際の材料は多くの結晶欠陥を含んでおり、物性定数通りの値を示すとは限らない。性能指数と言っても、オーダー程度の評価値と解釈するのが妥当かもしれない。

表2 パワー応用に向けた材料ごとの各種特性指標。特性指標の計算には表1の値を用い、Siのケースを1とした相対値で表示している。

 更に、上記の理論式はパワーデバイス構造としてのポテンシャルを見積もる過程で導出されたのであり、そこでも暗黙の前提が存在する。それは「十分なドーピング制御性が確保されており、均一なバルクドリフト層を形成できる」ということである。SiおよびSiCではこの前提がまあまあ成立する。GaNではヘテロ構造に基づく別の理屈から部分的に回避されている。そしてダイヤモンドでは、この前提そのものが甚だ怪しくなる。ここに、ダイヤモンド半導体研究の本質的難しさが存在する。

(続く)

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