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クローズドループ方式の地熱発電 (1)
〜 エバーループ 〜

ゲレツリート地熱発電施設の建設コストは、従来型の地熱発電施設と比較すると、どの程度高くなるのか、また、この施設の維持コストは通常型の地熱発電と比較すると、どの程度安くなるのか、エバー社はどの程度を見通して事業を行なっているのか?ということは、興味ある事だと思います。しかしながら、ゲレツリート地熱発電施設は現在建設進行中なので建設費がいくらになるのかは今のところ明確ではないようです。地下に複雑な構造の配管を行うので、単純に考えると、特に掘削、配管作業が高コストになるのではと推察されます。

近年は、高速で低コストが期待できる新しい掘削技術が進展しています。エバー社は一般論として、長期的には掘削技術の改善、低コスト化や量産効果によって、建設費の低減を想定しています。

ゲレツリート地熱発電施設の建設費や維持費について、インターネットのAIサイトにどの程度に試算されるのかを尋ねると、それなりには答えは出します。また同程度の出力の従来方式の地熱発電や、その他の発電方式との費用の比較結果も算出し、答えを出します。試算では掘削のための費用が大きく膨らむようです。しかしながら、それらの試算にはいろいろと想定や推察を含んでいるのでAIによる試算はどの程度正しいのかは不明です。

独立行政法人エネルギー金属鉱物機構(JOGMEC)がクローズドループの経済性を試算した資料がインターネット上にあります6。この試算では、建設費や運用費の試算ではなく発電コストとして表現しています。エバーループを使って発電すると、1kWhの発電コストは158~224円/kWhと試算しています。仮にJOGMECの試算が正しいと想定すると、従来型の既存のオープン方式地熱発電での日本の発電コストは11~20円/kWh程度ですから、地下の水蒸気が利用可能な地域では、発電コストで考えると従来型のオープン方式が圧倒的に有利と考えられます。

一方、資源エネルギー庁(ANRE)のウエブサイトにある中部電力作成の資料4にはゲレツリート発電施設の第1エバーループでの発電コストは85円/kWh程度、最終的に建設される第4エバーループの発電コストは45円/kWh程度になることが示されています。掘削作業の最適化、効率化などにより発電コストは今後次第に低減していくと示されています。この資料によると、各地でエバーループの建設を推進すると、量産効果と掘削技術の洗練により、15回設置後には発電コストは20円/kWh程度になると予測しています。

図4は中部電力が作成した資料で示されているエバーループの建設回数と発電コストの関係を示しています。図4の予測は、アメリカのアパラチア地方でのシェール石油・ガス掘削作業の掘削回数と掘削コストの変化から類推して、こういう傾向になるという予測の話のようです。当然ですが、地熱発電所の設置場所や発電施設の規模により、掘削コストは変動します。図4は大まかな推定ですが、従来型のオープン方式地熱発電での日本の発電コストは11~20円/kWh程度ですから、15回くらい設置すると従来型のオープン方式地熱発電の発電コストに近づきます。この考察は少し楽観的展望かもしれません。しかしながら、水蒸気が湧いて出てくるような場所ではなくても、将来的には安い発電コストで地熱を利用することが可能になってくるとは考えられます。エバーループのような地熱発電施設の場合、掘削コストが発電コストに大きな影響を与えています。掘削コストを抑えるための掘削技術の進化については、連載の次の回で簡単にまとめます。

図4 建設するエバーループの数と発電コストの推察4

エバーループは現在建設中の施設であり、部分的な運営が始まったばかりなので、この施設を維持管理補修の費用がどの程度必要なのかは不明です。図3に示しているようにエバーループは複雑な構造をしていて、しかもロックパイプと名付けられている新しい管壁構造を持っています。 エバー社は予測に基づいて維持管理補修費を想定しているのだと思われますが、実際にはこれらの施設の維持管理補修費がどの程度必要かは、長い時間を必要とすると思われます。

ゲレツリートでは、1km掘ると温度が32℃上昇することが知られています。つまり地温勾配は32℃/kmだということです。ゲレツリートはドイツ国内では地温勾配は大きい方です。中部電力の資料4によると、熱水が湧くような場所ではない普通の場所でも、日本では地温勾配は32℃/km以上になっていることを示しています。つまり日本ではゲレツリートよりも好条件だという場所はたくさんあると主張しています。地温勾配が大きいと、同じ深さの施設を想定すると地下の温度がより高温なので、より大きな出力の発電が期待されます。日本の場合、地温勾配は世界の平均より高いことが知られています。また、特別に大きな地温勾配の場所は、一般には風光明媚な場所だったりします。そのような場所の場合、美観を損なわないように発電所そのものを地下に建設することも可能性として考えられるかもしれません。

4. 均等化発電原価

発電コストについて一般的な議論を示します。発電施設の経済性を考察する際には、均等化発電原価 (Levelized Cost of Electricity : LCOE)というパラメターが利用されます。均等化発電原価が安くなると電力料金も安くなります。LCOEは次の式で定義されています。

この式は、ある発電施設が一生のあいだにかかる総費用を、そこで作られた電力量で割って「1キロワット時あたりいくらで発電したか」を示した指標です。それぞれの異なる発電施設で発電コストを比較する場合は、発電施設を40年間運転した場合を想定し時間的条件を揃えて発電コストを比較したりします7

上の式で、分母の総電力量と施設維持費は、施設の寿命Tの関数ですが、単純にこれらはTに比例すると想定し、それ以外の建設費などは定数だとします。そうすると建設費が高くても、なるべく長期の施設運営を想定するとLCOEが安くなっていくことは理解できると思います。実際のところクローズドループ方式地熱発電施設の寿命は何によって決まるのかを次に考察します。

5. クローズド方式施設の寿命

クローズド方式の場合は長期利用の間に緩やかに熱源の温度低下が発生すると考えられています。地下の熱交換器に接している岩盤は、発電施設の運転を長期継続していると次第に温度低下を引き起こします。岩盤の熱伝導率が低いため、高温岩盤の奥の方から熱交換器に接している岩盤への熱の供給に遅れが発生すると考えられ、熱交換器に接している岩盤の温度が次第に低下していくと考えられています。これによる発電の出力低下が発生します。つまり熱伝導率の低さが原因となって、地下から取り出せる熱が緩やかに減衰していきます。当然の話ですが、熱伝導率が高く熱容量の大きい高温岩盤層ほど優位だと推察されます。

実際の発電施設の設計や運営を設定する場合、計算機を使って、熱・流体統合モデルを利用して数10年先までの温度変化、流量、出力変化などのシミュレーションを行っています。シミュレーションにより長期間の運営の条件を導いて、長期の運営計画を立てるようです。図5は長期の時間の経過による出力の低下を示すシミュレーションの例を示します。これらのシミュレーションでは、発電所の出力を変えたりしながら、発電施設の規模の設計も行なったりしているようです。

図5 運営時間経過に伴う出力低下のシミュレーションの例。
M. Toews and M. Holmes (2021)の文献9より

図5で示されているように、最初の5年くらいの間は、出力の低下が発生しますが、その後は、緩やかに減少しています。寿命がどの程度伸びるのかは、使い方によると思われます。

計算機シミュレーションの場合、クローズドループ方式の熱源の温度低下の問題は、従来のオープン方式の地熱発電での運営のシミュレーションよりも、シミュレーション自体は楽だと考えられ、また高い精度でシミュレーションが可能だと考えられています。しかしながら、地下の高温岩盤層についての正確なデーターが採取されていないと精度の高いシミュレーション結果は得られないことになっています。実際には高温岩盤層の熱伝導率には場所に依存してバラツキがあり、また岩盤層の亀裂なども存在しており、正確なデーターの採取には限界があると考えられています。シミュレーション結果はある程度の巾を持った参考という位置づけだと思われます。

温度低下に関して熱伝導率が重要な因子なので、仮に、出力が低下した場合、発電事業をしばらく停止すれば、熱源の温度は回復するのではと推察されます。回復にかかる時間は一般的に数10年から数100年規模と推察されています。クローズドループ方式の場合、大容量の熱源から、熱を少しずつ取り出して、出力低下を抑制させながら長期運営することが前提です。

オープン方式の場合も、熱源の枯渇、熱水の枯渇が問題となりますが、熱源の温度の問題以外にも、地下の熱水の流れの変化、つまり、地下水の地熱貯蔵層への流入や流出に伴う変化も想定しなければならず、シミュレーションの予測がより難しい状態です。実際の施設運営では地下の状態を注意深く観察しながら運転しています。

長期的な視点で考えると、小規模の市町村でクローズド方式を分散電源として建設し、出力を抑えながら補修を続けて運転していくと100年程度は安定的に電力を得ることができるかもしれません。また、複数個施設を設置し、数10年または100年の期間で施設を交互に休眠させると、単純な推察では半永久的に運転が可能になります。ダム、道路、上下水道などと同じような地域のインフラ施設とみなすと、自治体が関与する事業と考えられるかもしれません。このことを実現させるには十分な計算機シミュレーションと、地下の状態の正確な調査、運営計画の練り上げ、設置する自治体の住民の十分な理解が必要かと思われます。つまり建設決定までのリードタイムは十分長く確保する必要はあると思われます。

6. まとめ

昨年2025年12月に試験運転を開始したドイツのゲレツリート地熱発電施設についてインターネットで採取することができる内容を整理してみました。ゲレツリート地熱発電施設は初の実用商業運転施設として注目を集めています。

この文章は、クローズドループ方式の特徴について考察しました。クローズドループ方式の場合、地下に熱水が存在するような場所を必要とせず、地下に乾燥高温岩盤があれば、発電可能であると考えられています。実際、日本の大部分の場所でゲレツリートよりも好条件だと指摘されています。これがクローズドループの最大の優位点かと思われます。また、建設費用が高コストであることが推察されますが、エバーループの設置回数を増やしていくと、量産効果と掘削技術の洗練化により発電コストは安価になっていくことが推察されています。掘削技術の進展については連載の次の回で述べます。

また、適切な運用をしないと熱源の温度低下が顕著になり発電施設の寿命に影響します。シミュレーションによる施設の設計と運営計画の練り上げが重要なことだと考えられています。高精度のシミュレーションを行うための地質の調査を必要とするようです。これは、従来の熱電発電施設建設を目的とした高温の熱水、水蒸気を探すことを目的とする調査とは異なった調査です。

連載(2)では、クローズド方式施設を安価で建設するための掘削技術の進化、もう一つのクローズドループ方式の同軸熱交換方式、およびクローズドループ方式の地熱発電技術の日本での導入について個人的な考察を示します。

参考にした資料 

[1] エバー社のウエブサイト。 

 エバー社のユーチューブサイト。

[2] 日本経済新聞の記事。

[3] 株式会社国際協力銀行(JBIC)によるゲレツリート発電施設の紹介記事。

[4] 資源エネルギー庁のサイトにある中部電力作成ゲレツリート施設の説明資料。

[5] 鹿島建設のウエブサイトのニュース2024/02/19

[6] 独立行政法人エネルギー金属鉱物資源機構によるクローズド方式の建設費用の考察。

[7] 経済産業省 発電コスト検証ワーキンググループ資料 (2021) 各発電様式の発電コストについて考察。

エバーライト、ゲレツリート施設についてのいくつかの資料・論文

[8] M. Toews, D. Riddell, J. Vany, B. Schwarz, Proceedings World Geothermal Congress 2020 Reykjavik, Iceland, April 26 – May 2, 2020.

[9] M. Toews, and M. Holmes, GRC Transactions, Vol. 45, 2021: Eavor-Lite Performance Update and Extrapolation to Commercial Projects, Proceedings, Geothermal Rising Conference, California, USA (2021), vol. 45.

[10] S. Longfield, B. Schwarz, M. Hodder, T. Stuebing, M. Holmes, J. Vany, and D. Mölk, European Geothermal Congress 2022 Berlin, German, 17-21 October 2022.

[11] J. J. Kelly and C. I. McDermott, AIMS Geosciences, 8(2): 175–212. (2022).

[12] K. F. Beckers, and Henry E. Johnston, PROCEEDINGS, 47th Workshop on Geothermal Reservoir Engineering Stanford University, Stanford, California, February 7-9, 2022 SGP-TR-223.

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