前稿で、近頃話題のAIデータセンターと電力供給面からの課題を概観した。本稿では、その課題を解決して、1 GW 級のAIデータセンターを可能にする技術アプローチを具体的にみていこう。下図に、現在と将来のデータセンターの電力供給アーキテクチャを示した。前稿でざっくり書いたように、現在最新の電力供給アーキテクチャ(図2-1 上段)は、系統から受電した 20 kV 程度の特高交流をトランスで3相 400 V に降圧してホール内に分配する。ホール内の分枝には必要に応じでUPSや絶縁トランスが設置される。サーバーラックで交流 400 V を直流 50 V に変換して、直流を必要とする計算ノードに供給する。図では交流配線を赤線で、直流配線を青線で示した。
現在検討が進められている将来の電力供給アーキテクチャ(図2-1 下段)では、特高交流を固体化トランス (Solid-State Tramsformer: SST) で直流 800 V に変換して、そのままラック内の計算ノードまで供給する、すっきりとした構成が考えられている。図では直流 800 V がダイレクトに繋がるように書かれているが、回路保護のために分岐点などには必ず遮断器がおかれる。

図2-1 https://nvdam.nvidia.com/assets/share/asset/zlg5snufeo より作成
交流アーキテクチャと直流アーキテクチュアの比較
両者の違いは、現在のアーキテクチャが交流 400 V で電力をサーバーラックまで運ぶのに対して、将来アーキテクチャは、直流 800 V でサーバーラックの内部まで電力を届ける点にある。大電力をできるだけ高い電圧で送り導通損失を減らすのが狙いだ。それならば、わざわざ直流にしなくて扱いやすい交流 800 Vで送っても良いのではないか、なぜ交流から直流に変更するのだろうか。次の表を見ながら、直流電力供給アーキテクチャの利点を考えてみる。
| ACアーキテクチャ | DCアーキテクチャ | |
| 電圧変換 | 商用周波数トランス 鉄と銅でできた受動素子 ⚪︎ 安価、高信頼性 × 嵩張る、重い | DC/DCコンバーター 多数のパワートランジスタと高周波トランス、制御回路で構成される能動電子回路 × 高価、部品点数多 ⚪︎ 小型、軽量 |
| システム電力効率 | DCアーキテクチャより低い。 電力の流れの途中で、交流/直流、直流/交流変換が繰り返される。 | ACアーキテクチャより高い。 直流変換後は直流でつなぐ簡素な構成。蓄電装置(バッテリー、スーパーキャパシタ、電解コンデンサ等)が直流バスに直接接続される |
| 回路保護(遮断器) | 容易(電圧が0になる時点で放電アークが消える) | 難易度高(接点間に発生した放電アークが消えない) |
はじめに電圧変換のやり方を比べる。交流はトランスで簡単に昇降圧できる。トランスは鉄のコアに銅線を巻いた受動機器で、外部制御が不要で信頼性も高い。これが19世紀末の「電流戦争」でテスラの交流送電がエジソンの直流送電に勝って、電力インフラに広く使われている理由である。ただし、商用周波数 (50 ~ 60 Hz) 用のトランスは体積が大きく重量も重い。周波数を高くすればトランスを小さくできるのだが、そもそも商用周波数は、19世紀末に安全に発電機を運転できる回転数 (3000 ~ 3600 rpm) で決められたレガシーで、今更変えられない。
トランスが使えない直流電圧をどうやって昇降圧するのだろうか。直流を交流に変換すればトランスを使える。半導体の姿かたちも無い時代には、直流電動機で直流発電機を駆動する電動発電機が使われていた。電力エネルギを一旦運動エネルギを変換してまた電力エネルギに戻す方法である。直流電動機/発電機の内部では、回転する整流子と固定されたブラシで電流を切り替えて、直流/交流変換していると見ることもできる。電動発電機の回転数を交流周波数としてみると商用周波数と大差ないので同じ電力容量のトランスと同程度の大きさになり、加えて回転部やブラシがあるため騒音や保守に手間がかかる。トランスで簡単に昇降圧できる交流にはかなわない。時は流れ、パワー半導体とそれを使ったパワーエレクトロニクス(パワエレ)が進んだ21世紀には形勢が一変した。電動機の回転運動で直流/交流変換していたところを、パワエレで、直流を交流に変換 → トランスで昇降圧 → 交流を直流に戻す、静止型の変換器が実現できるようになった。パワエレの最大の利点は商用周波数よりもずっと高い周波数の交流で電圧変換できることだ。周波数を上げるとトランスを含めた変換器を大幅に小型化できる。市販のSiC MOSFETを使うと大電力を 50 kHz(商用周波数の1000倍)でスイッチングできる。電動発電機ならば 300万rpm に相当し、もしそんな回転数で電動発電機をブン回せたらずっと小型になるはずだが、近頃話題のウラン濃縮用遠心分離機でもたかだか 10万rpmと言われている。可動部の無い静止型で直流電圧変換できるパワエレのありがたさがわかる。
交流の電圧変換はトランスでと述べたが、商用周波数交流の電圧変換器の小型化にもパワエレは有効だ。上述の直流電圧変換の前後に、商用周波数交流/直流変換と直流/商用周波数交流変換を加えれば、小型の高周波トランスで商用周波数交流の電圧を変換できる。これは固体化トランス (Solid-State Tramsformer: SST)と呼ばれ、都合4回の交直変換を連ねてコストがかかる方法であるが、変換器を大幅に小型化できる。例えば、20 t の商用周波数トランスが必要な交流電圧変換を、500 kg の高周波トランスと電子回路で構成でき、機器全体の体積も1/14程度になると試算されている(Infineon Tech. Japan後藤氏によるDC JAPAN 2026セミナー)。AIデータセンターでも特高交流から直流 800 V への変換にSST利用が検討されている。
電圧変換の話に関連して、800 V 直流アーキテクチャが選ばれた背景を解説する。実は先行する800 V 直流アーキテクチャが電気自動車 (xEV) にあったのだ。xEVで主流の電力の流れは、充電器から供給される商用の交流 100 ~ 200 Vを、車上充電器で直流 400 Vに変換してバッテリーを充電する。運転している間は、バッテリーの直流 400 V を直流 800 Vに昇圧して、インバータで 800 V 3相交流に変換して走行モーターを駆動してする。減速時はモーターを発電機として回生電力を逆の経路でバッテリーに送り込む。補機用にバッテリーの直流 400 V を直流 12 V へ落とす変換器も搭載されている。マーケットの大きなxEV向けに、SiCやGaNのパワー半導体の開発が進み 400 ~ 800 Vクラスの電力変換器の小型軽量化が進んだ。AIデータセンター用の直流アーキテクチャにxEVで成熟した 800 V クラスの電力変換技術を使わない手はない、と 800 V が選ばれたわけだ。今後、AIデータセンター用電源がxEVに匹敵するマーケットになるような勢いが続けば、定置型のAIデータセンターでは、さらに直流 1500 V 給電へ上げようという動きもある。
表に戻って、ACアーキテクチャとDCアーキテクチャの電力利用効率を比較する。連載(1)で述べたように、負荷変動が大きなAIデータセンターでは、負荷変動のクッションとなるように、電力分配それぞれの段階に蓄電デバイスが配置される。具体的な蓄電デバイスは、バッテリーやスーパーキャパシタ、キャパシタなどで、配置されるノードの負荷変動の時間スケールと大きさに合わせて選ばれる。これらのデバイスは直流で充放電するので、交流アーキテクチャ内では充放電に、交流/直流変換→蓄電デバイス→直流/交流変換の2回の変換が必要になる。図2-1上段の交流系統内に置かれるUPSには、全電力が常時2段の交直変換器を通るのでUPSの挿入損失がばかにならない。直流アーキテクチャならば、直流電力の流れは電圧差で決まるので、電源と負荷を直結した上でUPSを負荷と並列に置き、UPS電圧を負荷電圧の変動に応じて制御すれば、UPSを通過する電力は負荷変動に対する充放電電力だけになり、定常運転時の変換損失を抑えることができる。これも 800 V 直流アーキテクチャが進められている背景のひとつである。
最後に重要なのが回路の保護である。電力系統のどこかで起きた故障や事故を系統内に波及させないように、故障部分を高速で切り離す遮断器(ブレーカー)が分岐点に設置される。遮断器は電気的には単なるスイッチだが、交流と直流では様相が大きく異なる。電流を切ろうとすると、回路のインダクタンスが電流を流し続けようとスイッチに大きな誘導電圧がかかり、端子間にアーク放電が起きてしまう。交流では1周期のうちに必ず電圧が 0 になる瞬間があり、そこでアークが消えて電流を容易に切ることができる。家庭の配電盤にあるように交流ブレーカーは機械スイッチで、構造が単純でありかつ極めて低導通損失である。一方直流では、一旦アーク放電が起こるとインピーダンスが小さくなり、なかなか電流を切ることができない。機械的スイッチを使う場合は大がかりなものになりサーバーラック内に置けるようなものでなくなる。データセンターで 800 V直流アーキテクチャを実現するには、機械接点に頼らないパワー半導体デバイスを使った電子的スイッチが必須となる。
800 V直流アーキテクチャ具体的にどうのようなものになるのか、次のページで、サーバーラック内部の電力供給から見ていく。







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