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ワイドギャップ半導体としてのダイヤモンド (1)
〜 究極のワイドギャップ半導体 期待と限界 〜

1. はじめに

 パワー半導体は、電力変換効率を決定する中核技術として、電気自動車、再生可能エネルギー、データセンター、高速通信、宇宙・防衛用途など幅広い分野で重要性を増している。20世紀後半から現在に至るまで、シリコン(Si)は圧倒的な産業基盤と製造技術の成熟度によって電子産業を支配してきた。しかしながら、Siのバンドギャップは約1.1 eVと比較的小さく、高耐圧・高温・高周波動作において本質的限界が存在する。特に高耐圧化のためには厚いドリフト層が必要となり、オン抵抗増大による電力損失が避けられない。

 この制約を打破するために登場したのが炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)に代表されるワイドギャップ半導体である。SiCは高耐圧・高温動作に優れ、電気自動車や産業インバータにおいて急速に普及している。一方GaNは高電子移動度と高速スイッチング特性を活かし、RF増幅器や高速電源用途で強い存在感を示している。

 材料物性の観点から見ると、これらの半導体材料をさらに凌駕する材料が他にも存在し、近年特に超ワイドギャップ半導体(Ultra Widegap Semiconductor)として注目を集めている。それが酸化ガリウム(Ga2O3)や窒化アルミニウム(AlN)、ダイヤモンドなどである。 中でもダイヤモンドは、もともと宝石であり、何かしらエレガントな雰囲気から材料研究者の中ではかなりの人気を博したテーマであり続けた様に感じる。直近の高市内閣における成長戦略のもと、大規模な対米投資案件として言及されていることから、産業化の観点からも今後の注目株であろう。

 ダイヤモンドは、基本的特性として約5.45 eVという大きなバンドギャップを有する半導体材料(この値からは絶縁体と言ってもいい代物であるが、電気を流すことが出来ることから紛れもない半導体と言える)である。それに伴って極めて高い絶縁破壊電界を示すことから、Baliga’s Figure of Merit(BFOM)[1]他の性能指数がSiを遥かに超え、SiCやGaNに対しても桁違いの性能を持つとされるのは、応用先として有望視されるパワーエレクトロニクス分野では広く知られている通りである。加えてダイヤモンドは、(超)ワイドギャップ半導体の中でも、結晶構造や熱伝導率等で他とは大きく異なる性質を併せ持つ特異な存在でもある。

 近年、実用化の観点からはSiCやGaNは世の中で一定のマーケットを獲得しつつあるのに対し、残念ながらダイヤモンド半導体は依然として本格的な実用化には至っていない。その理由は単純な製造難易度だけではない。むしろ重要なのは、ダイヤモンド半導体デバイスが従来のワイドギャップ半導体とは異なる「設計指針」を要求する点にあるのではないか。ダイヤモンド半導体に関しては優れたレビューが既にいくつか存在しており [2-6]、技術的詳細はそちらに託すとして、本コラムではダイヤモンド半導体のメリット/デメリットを上記の基礎物性を始めとする種々の観点から吟味し、SiCおよびGaNとの比較を通じてその置かれている技術現状を改めて分析してみようと思う。

2. ワイドギャップ半導体としてのダイヤモンドの基礎物性

 半導体材料の性能を決定する最も基本的な物理量はバンドギャップである。バンドギャップは価電子帯と伝導帯のエネルギー差であり、この値が大きいほど熱励起キャリア密度は低下し、高温環境でもリーク電流が抑制される。図1、表1[7,8]に各種半導体結晶の結合長(ボンド長)とバンドギャップ値、及び基礎特性の比較を示す。まずは表1のバンドギャップ値を見て頂きたい。シリコンのバンドギャップは約1.1 eVであるのに対し、4H-SiCでは約3.2 eV、GaNでは約3.4 eV、ダイヤモンドでは約5.45 eVに達する。この差は単なる数値差ではなく、デバイス動作限界そのものを変化させる。

図1 各種半導体材料のボンド長とバンドギャップの関係。通常、横軸は格子定数でプロットされるケースが多いが、結晶構造の異なる材料を同時に記載するため、本図ではボンド長を採用している。

 バンドギャップの増大に伴って特に重要となるのが絶縁破壊電界である。経験的に、絶縁破壊電界はバンドギャップの2〜2.5乗程度に比例するとされる。そのため、ダイヤモンドでは10 MV/cm級の極めて高い絶縁破壊電界が期待される。これはSiの0.3 MV/cm程度と比較すると桁違いであり、SiCやGaNをも大きく上回る。絶縁破壊電界が大きいということは、パワーデバイスにおいては同じ耐圧を実現するために必要なドリフト層厚みを大幅に薄くできることを意味する。また、ドーピング濃度を高く設定できるため、オン抵抗を劇的に低減できる。

表1 パワー応用に向けた各種半導体の物性定数。文献7,8 を中心に他の報告も含めて筆者が再整理。

 上記のバンドギャップ値や絶縁破壊電界が大きいと言う特性は、元をたどれば原子が小さくてその結合長が短く、原子間の結合が強くなることに起因する(図1参照)。このことは第2周期の元素をアニオン構成要素とする他のワイドギャップ半導体(窒化物や酸化物)でも同様であるが、ダイヤモンドの場合は、そもそも元素半導体であってアニオンとカチオンの区別がなく、すべての構成原子がサイズの小さい第2周期の元素であることが特徴的であり、その分原子間の結合がより強く強固になっている。図1の中でも、ダイヤモンドは通常半導体の一群やワイドギャップ半導体の一群とは全く異なる領域に存在していることが見て取れる。この様な特異な状況は以下の様な他の物性値にも反映されている。

 ダイヤモンドは熱伝導率においても突出している。室温付近で約2000 W/m・Kに達し、SiCの約4〜5倍、GaNの10倍以上に達する。この値は既知固体材料中でも最高クラスであり、詳細は後述するがダイヤモンドが「熱を逃がす材料」としても極めて重要であることを示している。この大きな熱伝導率は、量子論的には原子間の結合が強いことと原子の質量が小さいことの帰結として、固体の熱伝導を司るフォノンのエネルギーが大きいことに由来している。

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