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クローズドループ方式の地熱発電 (1)
〜 エバーループ 〜

1. はじめに

近年、気候の激甚化が顕著になってきて社会的に大きな経済損失が発生しています。そして、地球規模での温室効果ガスの抑制は重要課題になっています。また、本年2026年はホルムズ海峡の封鎖などが行われたりして、世界的に輸入エネルギーの値段が高騰したりしています。輸入エネルギー価格は不安定化し、この傾向はしばらく継続するかもしれません。温室効果ガスの排出を伴わない国産エネルギーをどう獲得するかは、重要な課題だと思われます。

地熱発電技術は他の再生可能エネルギーの太陽光や風力発電などと比べると地味な存在で、普段はあまり注目されていません。これは地熱発電が可能な場所が限定されていたことも原因ですが、太陽光や風力による発電施設の場合は、視覚的に強い印象を人に与えるという感覚的な理由も一因かもしれません。しかしながら太陽光や風力の場合、一般的に安定しない小さな電力を発生させ、さらに広大な敷地を占有したりする印象があるので、電力技術者からは否定的に見られがちです。一方で、効果的な地熱利用を想定すると、小さな敷地面積で、日本全土ではスケールの大きな安定した電力を新たに確保できるかもしれない事をこの連載で考察します。

昨年2025年12月に新聞やインターネットなどのメディアで、ドイツ南部の小さな町ゲレツリート(Geretsried)で新しい地熱発電施設が試験運転を開始したというニュースが現れました。この施設はクローズドループ方式と呼ばれている新しい地熱利用方式です。そして、この新しい方式での、初の商業運転を行う発電施設として、注目されています。

このゲレツリート施設やクローズドループ方式については調べてみるとインターネット上で色々な文章が転がっているようです1-12。ゲレツリートの施設やクローズドループ方式の地熱発電についてどういう特徴があるのかを、インターネットに散在している情報を集めて整理してみました。従来の地熱発電の場合、地下から熱水、蒸気が噴き出すような場所で発電するため、設置場所が限定されています。クローズドループ方式の場合は、そのような条件は必要とはしません。

連載(1)のこの回では、クローズドループ方式について簡単に説明します。そして、ゲレツリート地熱発電施設の現状についてまとめます。さらに、クローズドループ方式の特徴、優位点、問題点について考察します。そして、連載(2)では、クローズドループ方式を支えている要素技術の一つである、地下の掘削技術の進展について簡単に説明します。ゲレツリートの地熱発電はエバーループと名付けられたクローズドループ方式ですが、エバーループ以外のクローズドループ方式の同軸熱交換器型の地熱技術の進展についてレビューします。そして最後に、日本でのクローズドループ方式の地熱発電の進め方について個人的な考察を述べます。

2. クローズドループについて

図1 従来のオープン方式の概略図

従来の一般的な地熱発電施設の概略図を図1に示します。図に示すような地熱貯蔵層が地下に存在している場所で発電を行います。地下の地熱貯蔵層は蒸気を蓄えたりしています。この蒸気を地表に導いて発電を行い、発電後、冷えた水を地下に戻す方式です。地熱貯蔵層へは、地下水の流入や流出などを伴ったりしています。そして、そのような場所は、概して地下から蒸気や熱水が湧き出したりする場所です。つまり温泉などの施設のある場所です。

2017年に設立されたカナダのスタートアップ企業エバー社(Eavor社)1が、カナダのアルバーター州ロッキーマウンティンハウス近郊に、基礎的な実験を行う実験施設を2019年12月に完成させています。このロッキーマウンティンハウスのクローズドループ実験施設をエバーライト(Eavor-Lite)8-10と名づけています。エバーライトの概要を図2に示します。

図1 エバーライトの概略図

2500mほど離れた位置で地表から2本の立坑を掘削し、約2400mの深さまで掘り進め地下の高温岩盤層まで到達させています。そして、2本の立坑の両方から水平方向に掘削しループ構造を作ります。両端の立坑から高温岩盤層内を水平方向に掘り進め磁気センサーを使いお互いの位置を確認しながら最終的に水平坑を結合させたようです。エバーライトは閉じたループのパイプの中を水/高温水が循環します。

クローズドループ方式は高温岩盤層を必要としていますが、地中の水蒸気の存在を必要とはしていません。このことより従来のオープン方式と比較すると、この方式の優位な点は以下のように整理されます。

(A) 従来のオープン方式の地熱発電は地下の蒸気や熱水を取り出して発電に利用し、利用後地下へ戻します。地下に熱水や蒸気が存在するような場所でないと発電施設を作ることができません。従来のオープン方式の地熱発電を長年繰り返していると、地下の状態が変化していくことがあります。また、地下の地熱貯蔵層には地下水が流れ込んだり流出して、地下の熱水の減少や枯渇などの可能性も考えられます。持続可能かどうか不明な場合があります。また、日本では俗に温泉法と呼ばれたりする社会の法的な仕組みがあります。地下から熱水や蒸気が湧き出すような場所は概して近隣に商業施設があります。地下の蒸気・熱水そのものを新たに取り出す場合、近隣の商業施設と熱水取り出しの権利について協議しなければならず、また最終的には自治体の長の許可が必要です。クローズドループ方式の場合、地下の蒸気・熱水を必要としないので、蒸気・熱水が湧き出すような地域でなくても地下に高温岩盤があれば基本的に建設可能です。そして、日本の場合、概して地下に高温岩盤が存在しており、いろいろな場所で発電可能だと考えられています。

(B) 地下の熱水や蒸気をパイプに通して循環させる場合、地下の高温水はコロイド状のシリカ(SiO2)を主成分とする物質を含んでおり、これがパイプ内で蓄積しパイプの目詰まりを起こしたりします。パイプのメンテナンスや交換、新しい立坑の掘削を必要とし、ランニングコストが高くなります。クローズドループで行う場合、そのような問題は発生はしないと考えられています。また、オープン方式の場合、パイプの目詰まりの低減を目的として、弱酸性の薬剤を地下水に混ぜて地中に戻したりすることがあります。この薬剤は希釈硫酸を主成分としていて、地層に問題を起こすことはないなどと言われていますが、ランニングコストは高くなり、地質の変化が発生することがあります。クローズドループで行う場合、そのような問題は発生しないと考えられています。

(C) クローズドループの場合、熱を運ぶ流体をループ内に閉じ込めているので、流体の種類、圧力、流量を人為的に制御することが可能になります。出力の制御、運転計画や、施設寿命の予測が容易になります。また、ループ内の流体の熱の損失も抑制することができ、オープン方式と比較すると出力の増大も考えられます。オープン方式の場合、地熱貯蔵層に流れ込む地下水の流入や流出などの、物質の移動が伴っているので、施設の運転計画は慎重になり、施設の寿命を読みにくいと考えられています。

以上、従来のオープン方式の地熱発電とクローズドループ方式の利点を示しましたが、実際にはいくつかの問題点もあり、それらを後で考察します。

ロッキーマウンテンハウスに設置されたエバー社のエバーライトは、小規模の実験施設で、商業的に運転する施設ではありません。クローズドループ方式について、計算機シミュレーションによる性能予測技術、岩盤掘削技術、流体の循環技術などの実証施設との位置づけだと思われます。エバー社はエバーライトの実験をもとに、掘削技術、施設の構造、出力のシミュレーション技術などについて学術論文を複数発表しています。彼らは、この実験施設で採取した成果と、連載の(2)で述べるアメリカのニューメキシコで設置した実験施設エバーディープでの実験結果を基に、ドイツのゲレツリートで商業運転用のクローズドループ方式の地熱発電施設の建設を進めています。

エバー社の説明では、太陽光や、風力などの再生可能エネルギーの場合は電力の出力は変動するが、地熱発電は24時間、出力を一定に保ことが可能でベースロード電源になりうるとのことが強調されています。これはクローズド方式の特徴ではなく地熱発電の一般的な特徴です。ちなみに、エバー社が開発した技術や施設は、エバーなんとかという名称が付与されています。これは、彼らの一連の技術の商標登録や彼らの特許戦略によると思われます。

3. ゲレツリート地熱発電施設

ゲレツリートで地下の調査研究開発を行なっていたドイツの企業、エネックスパワードイツ株式会社 (Enex Power Germany GmbH)と、エバー社とが合弁の事業を行うためにエバー地熱ゲレツリート株式会社 (Eavor Erdwärme Geretsried GmbH)という会社を立ち上げています。そして、ゲレツリート地熱発電の商用施設10-12の建設を2022年10月に開始しています。計画では4つのクローズドループを建設する予定になっています。2025年12月に1番目のクローズドループ、つまり第1エバーループが完成し、公共電力網への電力供給を試験的に開始しました。2026年3月は1MWの電力を供給しています。運転の立ち上げ期では安全性を考慮して低めの出力で運転し次第に供給電力を増やすようです。2027年完成を目指して残りの3つのエバーループを完成させ、8.2MWまで出力を増やすことを目指しています。ドイツ語版Wikipediaのゲレツリート発電施設の説明では8.2MWの電力でゲレツリートの約4,900世帯への電力供給を想定していると示されています。中部電力によるゲレツリート地熱発電施設の説明資料4では年間の電力量では最大1.8万世帯への電力供給が可能と示されています。記述にちょっとした違いがあります。またゲレツリート施設では電力の供給以外に温水の供給も計画しているようです。

蛇足的な説明ですが、出力8.2MWは、どの程度の電力かを簡単に理解するために、他の発電施設の出力と比較してみます。火力発電所の出力は色々な規模のものがありますが、日本の環境省は出力10~118MW程度のものを小規模火力発電所と定義しています。8.2MWはギリギリ小規模火力発電所に近い出力かと思われます。また1ha~1.5haの面積を必要とする小型メガソーラー発電施設は1.0MW程度の出力なので小型メガソーラー発電施設の8.2倍の電力です。さらに原子炉1基の平均的な出力を 1GWとすると、原子炉出力の約0. 82%の電力です。ちなみに、オープン方式の日本最大の地熱発電所は大分県八丁原地熱発電所群で、八丁原の3つの発電所の総出力は112MWです。八丁原発電所群の7.3%の出力です。

このゲレツリートの建設プロジェクトは、エバーゲレツリート地熱株式会社が事業を担っていますが、オーストリア系の石油ガス精製事業を行うエネルギー関連企業OMV AG社が資本参加しています。またイギリスのエネルギー総合企業BP社(元British Petroleum)も出資しています。さらに、日本の中部電力はこの事業への出資を通じてこの事業に関与していることが公表されています5。またEUイノベーション基金(EUによる温室効果ガス排出ゼロに貢献する技術開発への基金)による助成、欧州投資銀行(EIB)、オランダの大手投資会社ING group、日本の株式会社国際協力銀行(JBIC)、日本のみずほ銀行も融資しています。ちなみに、中部電力のウエッブサイトではエバー社との連携やゲレツリート発電施設に関する複数のニュース記事を見つけることができます。また、鹿島建設も2024年にエバー社に出資し、地下構造のエンジニアリングで技術提携を行なっていることが、鹿島建設のウエブサイトで示されています5

ゲレツリートのエバーループの模式図を図3に示します。このクローズドループでは2つの立坑は近接して配置されており、高温岩盤層部分で斜め方向に12本の枝に分かれた斜坑が広がって熱交換器を形成します。ゲレツリートではこのようなクローズドループを4つ建設することになっています。

地下の熱交換器部分の深さは4300~4700mと記されています。地下の高温の岩盤層は花崗岩で温度は深い位置で160℃程度だと記述されています。地上に登って来た流体の温度については、この温度より少し低いと推察されます。高温岩盤層部分の斜坑部分、つまり熱交換器部分には、エバー社がロックパイプと呼んでいる特殊な材料と構造を採用しているようです。金属製のチューブは使われていないようで、アルカリ珪酸塩系材を使って管壁を形成しているようです。このアルカリ珪酸塩系材によるロックパイプとは、緻密で滑らかなコンクリートのような材料で管壁を形成しているのではないかと推察されます。地下の岩盤に穴を開けたのち、薬液を流し込んで岩盤内で反応を起こさせて管壁を形成していると考えられます。地下での配管が比較的容易で、繰り返しの修復が容易などの理由によりこのような構造にしているのではと推察します。

図3 ゲレツリートのエバーループの簡略図

エバーループ内では流体が循環しています。熱によって発生する自励循環を利用して循環させています。地下の熱交換器部に冷えた流体を注入すると加熱されて密度が低下し、地上方向に向かって流れます。地上に上がった高温の流体は、地上の熱交換器で冷却され、再び高密度になり立坑を伝わって地下へ再び戻っていくことになっています。この自励循環のメカニズムはサーモサイフォンなどとも呼ばれています。ポンプによる循環を必要とはしませんが、自然な循環を発生させるためには、ガソリンエンジンのセルモーターのように、ポンプを利用して1度ループ内に滑らかな流体の循環を発生させます。冷水が流入する立坑内部で蒸気が発生すると、ループ内での流体の流れが乱れて脈動が発生します。冷水用の立坑内部のパイプには蒸気が発生しないような仕掛けがなされているようです。また、脈動が発生した場合は、ポンプを起動させて、流を整えたりするのではと推察します。

自励循環と名付けられているので、これは永久機関ではないかと勘違いする人がいるようですが、当たり前ですが永久機関ではありません。常にループの下側から大きな熱エネルギーを受け取って循環しています。

地上に上がった高温流体は地上の熱交換器によって冷却されます。この時、地上の熱交換器内で、低沸点の有機物質イソブタンに熱を与え沸騰させます。この有機物質の蒸気を利用してタービンを回し発電しています。有機物質を利用する方式は有機ランキンサイクル(ORC)方式と呼ばれています。またタービンを回すのに2回の熱サイクルを経由する発電方式をバイナリー発電などと呼んでいます。ゲレツリートの発電機構はORCを用いたバイナリー発電と表現されています。

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