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コラム 解説

増殖・成長する積層欠陥とMOSFETの特性劣化 (2)
〜 基底面転位ループの構造 〜

図2-2の左側のグレーの三角形A’の領域と、中央のベージュの三角形Cの領域との境界に沿って、b=1/3[0110]の部分転位が存在します。中央のベージュの三角形Cの領域と図の右側のグレーの三角形A’の領域との境界に沿ってb=1/3[1010]の部分転位が存在します。そして2本の部分転位の間にはベージュの三角形Cの領域、つまりショックレー型積層欠陥が存在しています。図2-2の左右のグレーの領域は四面体A’を表し、この基底面転位はA’層中に存在しています。中央のベージュの四面体領域は、四面体A’層中に局所的に出現したC-siteに位置する複数の四面体Cの領域です。

図2-2  A‘層で基底面完全転位b=1/3[1120]が2本のショックレー型部分転位、b=1/3[0110] , b=1/3[1010] に分解していて、その間にショックレー型積層欠陥が存在している状態。2本の部分転位は両方とも同じ向きξ=[1120]を想定している。黒丸はすべり面の下側のC原子、白丸はすべり面の上側のSi原子を示す。

図2-2の左下の赤文字aで示した位置はSi原子の投影位置で、グレーの正三角形の重心に位置しています。この位置から赤矢印に沿って見ていきます。赤文字bもSi原子の投影位置です。もしこの結晶が完全結晶であれば矢印に沿って見て行ってもSi原子の投影位置は常にグレーの正三角形の重心位置に存在するはずです。しかしながら、図では基底面転位が存在する状態を描いていて、複雑な状態です。赤矢印に沿って見て行くと、b=1/3[0110]の部分転位に近づくと、Si原子の投影位置はシフトしています。この部分転位を越えると、グレーの三角形とは向きが異なるベージュの三角形の中にSi原子の投影位置は入ります。ベージュ部分の三角形は、[1100]方向つまり右側に頂角を持ち、[1100]方向つまり左側に底辺を持つことになります。この部分の四面体は、フランク型積層欠陥・連載 (1)図1-2(f)の四面体Cそのものです。図2-2の赤文字c,dではベージュの三角形の重心位置にSi原子の投影位置が存在しています。さらに赤矢印に沿って見て行き、b=1/3[1010]の部分転位を超えると、Si原子の投影位置はグレーの三角形の内部に再び移動します。赤文字eの位置ではグレーの三角形の重心位置に再びやって来ます。

次に赤文字aの左横の黒丸のC原子の黒文字a’を起点に見て行きます。黒文字a’はすべり面の直下のC原子の位置です。黒矢印に沿って見ていくとb’に移動します。赤矢印と同じ数だけC原子に沿って見ていくと、黒文字e’のC原子位置に到達します。黒文字e’のC原子の右横にあるSi原子位置e’’が、基底面転位が無いときのSi原子の投影位置です。このSi原子位置e’’から赤文字eに向かって緑の矢印を描いています。この図全体を左から右へ見ていくと、すべり面の上側のSi原子層はすべり面の下側のC原子層より、緑の矢印1/3[1120]だけ変位していることをこの図は示しています。

この図の構造でバーガース回路を作成し、放射光トポグラフの利用 (2)で説明したFS/RHの取り決めに従ってバーガース・ベクトルを求めると、この図全体で、b=1/3[1120]の変位があることがわかります。ベージュの部分のショックレー型積層欠陥の縁には部分転位が存在しています。この図からFS/RHの取り決めに従って部分転位のバーガース・ベクトルを求めると、左側の部分転位はb=1/3[0110]、右側の部分転位はb=1/3[1010]が求まります。この1/3[1120]の変位は、1/3[0110]の変位と1/3[1010]の変位と2段階の変位によって構成されていることがわかります。左側の部分転位は転位の向きとバーガース・ベクトルの向きは30度の角度があり、バーガース・ベクトルは転位の向きに対して左を向く成分を持っているのでSiコア転位です。こういう転位をSiコア30度部分転位と呼んでいます。右側の部分転位は転位の向きとバーガース・ベクトルの向きは同様に30度の角度があり、バーガース・ベクトルは転位の向きに対して右を向く成分を持っているので、Cコア30度部分転位などと呼んでいます。Siコア転位の周りでは局所的にSi原子の数が多くなり、Cコア転位の周りでは局所的にC原子の数が多くなるため、ball and stick modelでは多い原子側がダングリングボンドを持つことになります。

図2-2では、A’層でb=1/3[1120]の基底面完全転位がξ=[1120]方向を向いている時に2つの部分転位へ分解して、その間にショックレー型積層欠陥が形成されている状態を示しました。そして、Siコア30度部分転位が出現していることがわかりました。基底面完全転位が2つの基底面部分転位に分解している状態について、模式図を描いて説明しました。図2-2はA’層中に基底面部分転位と積層欠陥が存在している状態を示しています。積層欠陥部分はベージュの三角形で示しています。このベージュの三角形は、四面体Cの投影です。A’層と名付けていますがショックレー型積層欠陥が存在すると四面体Cが出現することに気づいたと思います。

A‘層のb=1/3[1120]の基底面転位ループ

上の説明文ではA’層中で転位の向きξ=[1120]方向を向いているバーガース・ベクトルb=1/3[1120]の基底面完全転位が2つの基底面部分転位、b=1/3[0110]、b=1/3[1010] に分解していている状態を考察しました。2つの部分転位の間にはショックレー型積層欠陥が形成されています。4H-SiCはショックレー型積層欠陥エネルギーが低いので、容易に2つの部分転位の間隔が広がり積層欠陥の面積が増大します。放射光X線トポグラフ法で観察するとb=1/3[1120]の完全転位のように観察される基底面転位でもFIBで切ってTEMで観察すると 2つの部分転位に分解していることが確認されます。2つの部分転位には数10nm程度の間隔がありますが、この部分転位の間隔は個々の転位によって異なり、分解幅はかなりのばらつきがあります。

ショックレー型積層欠陥の増殖は、Siコア30度部分転位がREDG効果により動くことに起因していることは実験的に知られていると、この連載のはじめに説明しました。どういう時に、Siコア30度部分転位が現れているかは、基底面転位がどの方向を向いていて、どのようなバーガース・ベクトルを持つかに依存します。また、どの四面体層のすべり面にのっているのかも重要なことです。そこで、まずA’層中で、b=1/3[1120]の基底面転位が色々な方向を向く場合を想定して、どのような方向を向くとSiコア30°部分転位が現れるのかを考えます。

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