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クローズドループ方式の地熱発電 (2)
〜 掘削技術の進展、同軸型熱交換器、導入に関する考察 〜

1. はじめに

クローズドループ方式の地熱発電についてネットを使って調べた内容を紹介しています。連載(1)では、昨年、世界で初めて商業運転を始めたドイツのゲレツリート地熱発電施設について調べました。この施設はカナダのエバー社によるクローズドループ方式の地熱発電施設です。このクローズドループはエバーループと呼ばれていますが、このエバーループの特徴について考察しました。

エバーループはいろいろな要素技術の近年の進展により建設可能になっています。連載の(2)では、エバーループを建設可能にしている岩盤掘削技術の進歩について簡単にまとめてみます。エバーループの建設費をいかに安く建設するかは、岩盤掘削技術の低コスト化に強く依存しています。

次に坑井内同軸熱交換型と呼ばれている別のクローズドループ方式の地熱発電についてインターネットに散在する情報を集めて整理してみました。また、最後にクローズドループ方式の日本への導入について個人的な考察を述べます。

2. 要素技術の進歩、掘削作業の高速化・低コスト化

クローズド方式による地熱発電技術を可能にしている背後には各種の新しい要素技術の進展があることが知られています。エバーループのような地下構造建設が実現していることの大きな理由の一つに、掘削作業の高速化・低コスト化が指摘されています。2010年代前半アメリカで、シェールガス・石油が安価で獲得できるようになりました。掘削技術の進歩により掘削のコストが従来の1/2程度から1/5程度への低コスト化が進行し、これがシェールガス・石油の低価格化に大きく寄与したと言われています。ゲレツリートの施設では、シェールガス・石油掘削で進展した掘削技術を基礎に、エバー社の独自の技術を組み合わせて行われたと考えられます。以下に近年、進展した掘削の要素技術の内容をまとめます。

2-1. PDCドリルビットの高性能化

ドリルビットとは掘削作業を行うドリルの先端に取り付ける刃先のことです。このPDCドリルビットはタングステンカーバードの表面に多結晶ダイアモンド成形体(Polycrystalline Diamond Compact: PDC)によって構成されています。PDCドリルビットに限らず通常のドリルビット先端部分には冷却水の噴射口が作られていています。噴射された冷却水は、掘削屑とともに地上方向に吸い上げられ回収されます。PDCドリルビットは、効率よく掘削し、なおかつ冷却水と掘削屑を円滑に排出させるために、色々な形状のものが開発され、用途に応じてそれらを使い分けているようです。このPDCドリルビットは、シェール産業の隆盛とともに多量に利用され、量産効果により安価になっているようです。

2-2.   掘削パラメタの最適化

地下の状態を掘削中にモニターしながら、ドリルの回転数、トルク、負荷荷重、冷却水の圧力をリアルタイムで制御しています。掘削の高速化、掘削に必要な総エネルギーの最小化、ドリルビットの長寿命化を同時に満たすような条件をリアルタイムで調整する技術です。この技術の進展のおかげで、掘削速度と掘削コストが大幅に改善されているようです。

2-3. 水平掘削技術

シェールガス・石油井では、立坑から水平方向に向かう多岐分岐構造がたくさん作られています。シェール事業の隆盛によりこの多岐分岐構造を作るための資材が多量に生産されるようになり、安価にこの構造を作ることができるようになりました。また、数Km以上の長距離に及ぶ水平坑掘削も高速化が進展しました。これは、水平坑掘削装置の位置、深度、方向、傾斜角の精密計測技術、水平坑掘削のためのPDCドリルビット技術、水平坑掘削のための掘削条件最適化技術の進展によるものと説明されています。

2-4. 深部、高温、高硬度岩盤の掘削技術

上記の2-1.,2-2.,2-3. の技術は、シェール事業に関与している複数の企業により進化した技術で、シェール層掘削のための技術です。一方で、クローズドループ型地熱発電では硬い高温乾燥岩盤の掘削を行う必要があります。エバー社は上記のシェール層掘削技術を利用しながら、さらに深い位置での硬い岩盤の掘削技術への改良を行なっています。2023年にアメリカのニューメキシコに、エバーディープと名付けた施設を建設しています1。この施設では、深い位置での、高温・高硬度岩盤掘を、高速、低コストで掘削する技術の開発を目的としました。この事業はVickers Venture Partners、bp Ventures、BDC Capital、Temasek、Chevron Technology Ventures、BHP Ventures、Helmerich & Payne、Precision Drilling、中部電力などが支援しています。これらの企業は、機械・掘削装置関連企業、ベンチャーキャピタルファンド、さらに日本の企業などです。この事業で、深度5500m, 250℃の花崗岩の掘削を行い、硬い岩盤掘削用の新しいドリルビットの開発と高性能化、掘削方法の推敲、硬い岩盤掘削での掘削条件の最適化の調整などを行なっています。

これらの技術がゲレツリートの施設に応用されていると推察されています。連載(1)でも述べましたが、エバー社はエバーループの建設回数が増えていくと、掘削技術の洗練化と量産効果により掘削コストは下がっていくと予測しています。

3. 井内同軸熱交換器(Downhole coaxial heat exchanger: DCHE)型の研究開発

エバーループ以外のクローズドループ方式の試みについて紹介します。図1に示すような縦型の同軸の熱交換器を坑井内同軸熱交換器(Downhole coaxial heat exchanger: DCHE)と呼んでいます。これを地中に埋設する場合は、縦方向に掘削するのみなので、エバーループのような複雑な構造を地下に建設しないので、掘削経費は抑えられることになります。そのかわり1本のクローズドループから採取される熱エネルギーはエバーループと比較すると小さくなると考えられます。広い敷地面積を占有して多数の立坑を建設すると、比較的安価な掘削費用で出力を増大することは可能です。また、多数の立坑を建設する場合でも、単位面積あたりの出力は地熱>>風力・太陽光と考えられます。少なくとも太陽光よりも敷地面積は少なくて済むのは優位点です。また、温泉施設の近くではなくても、地温勾配が大きければ効率良く発電可能なことはエバーループと同じです。以下に、これまでの坑井内同軸熱交換器による地熱採集技術の進展の歴史を少しレビューします。

図1. 坑井内同軸熱交換器(Downhole coaxial heat exchanger: DCHE)の模式図

3-1. ハワイ・キラウエア火山からの熱エネルギー抽出

1991年に日本の一般財団法人エンジニアリング協会(ENAA)とハワイの学術振興団体Pacific International Center for High Technology Research (PICHTR)の共同プロジェクトとして、ハワイ・キラウエア火山のマグマ溜まりの熱エネルギーを抽出する実験が行なわれています2,3。この時に図1に示したような縦型熱交換器が設計されました。このDCHEが世界初のクローズドループ方式の地熱採取装置と言われています。

このプロジェクトには、日本側のメンバーとしてENAA、九州大学、秋田大学、工業技術院資源環境技術総合研究所、地質調査所などが加わっています。また住友金属工業株式会社、川崎製鉄株式会社、クボタ株式会社、三井造船株式会社などがDCHEの製作に関するプロジェクトに参加しています。アメリカ側はPICHTR、ハワイ自然エネルギー研究所(HNEI)、ハワイ地球物理学研究所(HIG)、ハワイ州立自然エネルギー研究所(NELHA)、サンディア国立研究所(SNL)、米国地質調査所(USGS)、インターナショナル・コンサルティング&マーケティング・グループ(ICMG)が参加し、ハワイ州政府の資金援助も行われています。

このプロジェクトでは、キラウエア火口から42kmの距離、標高180mの位置にある深さ1,962mの熱井戸に、全長875.5mのDCHEを設置しました。DCHEの最深部の温度は約120℃程度の温度です。そして火山近傍のマグマの熱源から熱エネルギーの抽出に世界で初めて成功したとしてプロジェクトは終了しました。1990年代前半にはこのプロジェクトの結果に関して計算機シミュレーションを練り上げる論文がいくつか出ています。これらはクローズドループ方式に関する基礎技術の開発、計算機シミュレーション技術の開発に貢献したと考えられます。

3-2. JNEC水分発電所のDCHE

地熱発電事業を推進するために2013年に京都大学発のスタートアップ企業としてジャパン・ニューエナジー株式会社(JNEC)が発足しました3。JNECは京都大学と連携し、2016年9月に世界初のDCHEによるクローズド方式を用いたJNEC式地熱発電システムを大分県九重町水分(みずわけ)に完成させました4-7。この発電施設は水分発電所と名付けられています。地下1450mまで埋設したDCHEにより地熱発電を行うことに成功しています。このプロジェクトは、DCHEの実証実験との位置づけだと思われます。出力の増大を目指して規模を拡大していくことがウェブサイトには示されています。2017年に、NEDOの『ベンチャー企業等による新エネルギー技術革新支援事業、フェーズD』に採択され1年間の助成を受けています8。現在のところ出力30MWを目標に事業を展開中だと思われますが、近年は事業進展の報告や説明はありません。

3-3. GreenFire Energy (GFE) 社のグリーンループ

GreenFire Energy (GFE) 社は2014年にアメリカのオクラホマで設立された地熱技術を基に事業を行うスタートアップ企業です。GFE社のウェブサイト9を見ると、多岐にわたる種々細々な事業内容が示されています。それらを以下の3つに整理しました。

3-3-1. 休眠地下施設の再生改修事業

古くなって収益性が落ち休止状態になっているアメリカ各地の地熱発電施設、地熱利用施設、地下資源採掘跡などの、改修、最適化、再生事業を行っています。改修の際には、新しい技術を投入し、新しい技術の実証も行なったりしているようです。

3-3-2. 新しい地熱発電技術の開発

GFE社は多岐にわたる地熱応用を目的とした要素技術の開発を行なっているようですが、ここではクローズドループに関連する技術を中心に記述します。彼らが開発したDCHEを、Green-Loop(グリーンループ)と名付けています。クローズドループで循環する流体について、多様な流体の利用を想定しています。特に超臨界CO2流体の利用についてのシミュレーションや実際の実験を行い利用技術の開発を行なっています。また、地熱発電に関する各種のシミュレーション技術の開発を行なっているようです。特に、エネルギー収支と経済の状況を統合するシミュレーション技術などの開発を行なったりしているようです。

誤解されないようにコメントを加えておくと、クローズドループ方式の話で出てくる超臨界CO2流体の話と、地下の深い場所の高温高圧での水/水蒸気の超臨界状態を利用し発電する構想の未来の夢の技術とされている超臨界地熱発電技術の話は別の話です。

ちなみに、超臨界CO2流体自体はいろいろな産業で利用されています。超臨界CO2流体とは31.1℃以上、74気圧以上で発生するCO2液体とCO2気体が共存する状態です。この流体は粘性が低く、小さな気圧差でも高速で流れます。高速で循環し大きな流量が確保されるので発電施設の出力増大が期待されたりしています。クローズドループ内で水蒸気を循環させると、地下から地上へ水蒸気が登って来る間に温度低下を引き起こしたりします。さらに超臨界CO2流体は高速で流れるので熱の損失が抑制される等の理由により超臨界CO2流体を利用することがクローズドループ方式で期待されたりしています。しかしながら、実際に超臨界CO2流体利用に関しては、いくつかの理由によって普通の水蒸気/水を利用する方が結局優位ではないかとの考察もあるようです。

グリーンループは、水蒸気、超臨界CO2流体など異なる性質の流体でも利用可能な設計に対応可能とされています。また、地下の状態や発電所の規模などの様々な要因によってクローズドループに必要とされる要件が異なってきます。個々の要件に柔軟に対応するための設計技術を含めた熱交換器設計技術、関連周辺システム、数値考察モデルなどの一連のDCHEに関する技術の総体をGFE社はグリーンループと呼んでいるようです。そしてグリーンループの名称で商標を獲得しており、これらの名称は彼らの特許戦略と関係しているようです。

3-3-3. 新しい技術の実証実験

3-3-3-a. コソ地熱フィールドでの超臨界CO2流体の検証実験

カルフォルニア州にあるコソ活火山地帯に1980年代に地熱発電施設が建設されCoso Geothermal Field(コソ地熱フィールド)を形成しています。この施設は民間企業により運営され米海軍施設に電力を供給しています。2020年にGFE社はコソ地熱フィールドの既存休眠状態の立坑に全長330mのグリーンループを挿入し、超臨界CO2流体を循環させる実験を世界で初めて行い、熱回収性能に関する基礎データーを採取しました。この実験では、水や超臨界CO2流体を含む8種類の異なる流体を、流量を変えた異なる運転条件で実験を行なっています。超臨界CO2流体実験の際には、地上の施設でCO2を注入し加圧してループ内で超臨界状態を出現させて自励循環させています。

成果の一部は2020年に開催されたスタンフォード大学地熱研究ワークショップで発表されています。この検証プロジェクトはGFE社の他に、米国エネルギー省(DOE)が参加しています。コソ地熱フィールド地熱発電施設を運営しているCoso Operating LLC.や、DOE系の公的研究機関や大学もこのプロジェクトに協力したとされています。またShell GameChanger Program(シェルの研究開発助成団体)と、カルフォルニア州エネルギー委員会(CEC)がプロジェクトの助成を行なっています。まずはグリーンループの実証実験と、超臨界CO2流体利用の実験をやって見ましたというプロジェクトだと思われます。

3-3-3-b. ガイザーズ地熱発電所でのグリーンループの実証実験

カルフォルニア州にあるThe Geysers(ガイザーズ地熱地帯)では1960年代から地熱発電施設が建設され商業的に電力を提供しています。現在15の地熱発電所が存在し350の熱井戸が稼働しています。Calpine Corporation(カルパイン社)が大部分の地熱発電所を所有していて、総出力725MWの電力を供給しているとのことです。ガイザーズ地熱発電所群の中で出力が低下している既存のオープン方式の地熱発電施設の立坑を利用して2025年にクローズドループの実証実験を行なっています10-11。この既存のオープン方式の地熱発電施設の立坑は深さ3050mで、その深さに存在している水蒸気溜まりの水蒸気を利用して発電しています。この立坑に全長760mのグリーンループを挿入し実験を行ないました。グリーンループ内では水/水蒸気を循環させています。約154℃の水蒸気の取り出しに成功し、熱回収効率の向上を確認しました9

地下3050mの水蒸気そのものを利用していて出力が低下した状態のオープン方式での電力の出力は0.5MWでした。全長760mのクローズドループ装置では、出力最大1.1MW相当を確保し、2倍の出力を産出しています。この違いは、オープン方式の場合の地下3050mの蒸気溜まりから湧き上がって来る水蒸気の圧力・流量と、クローズドループ内を循環する水蒸気の圧力・流量の違い等によることが主な理由ではないかと思われます。

このプロジェクトはカルフォルニア州エネルギー委員会(CEC)の助成が行なわれています。CECの2026年の報告書11によると、流量を抑えた30日間連続テスト運転を行い、最大出力の82%の出力で連続運転したと報告されています。このプロジェクトは終了し、実用に耐えるグリーンループの実証実験と位置付けています。この結果を踏まえて、CECの報告書では、ガイザーズの古い地熱発電施設にこのクローズドループの地熱システムを多数投入し、20年後くらいにそれらの電力の総出力が100MWに達すると、クローズドループによる発電コストは0.09ドル/kWh (14.4円/kWh) 程度になるとの楽観的かもしれない展望を示しています。

ちなみに、この実験では長さ760mのグリーンループで約154℃の水蒸気を取り出し、出力1.0MW程度の出力を確保していますが、これは単純に計算すると地温勾配は170℃/kmで、とても大きな値です。これはガイザーズ地熱地帯での実験であることに留意すべきです。仮に日本での地温勾配を32℃/km程度と想定すると、154℃の水蒸気を取り出すには4.5km〜5.0km程度は掘る必要はあります。

GFE社は、軍事防衛施設、工場などの産業施設などの限定的範囲で利用する小規模分散電源としての商業展開を想定しているようです。工場などの敷地内での小さな面積の施設で稼働し、安定した電力を供給する熱井戸のような設備の想定です。単位敷地面積あたりの再生エネルギーの発電電力を比較すると、地熱>>風力・太陽光となるので、売り込み先を、軍事防衛施設、工場などの産業施設などの設定は適切かもしれません。比較的大きな敷地が利用可能であれば、多数の立坑を掘削し多数のグリーンループを設置すると、出力はそれなりには稼ぐことはできます。

GFE社はファブレス的な企業のようで、ウェブサイトを見るとアメリカの様々な企業と提携・協業関係にあります。日本の東洋エンジニアリング株式会社とも2025年に協業契約を締結しています12。GFE社は、地下モデルの作成とシミュレーション、グリーンループ技術の提供を担当し、東洋エンジニアリング株式会社は、設計、調達、建設などを担当するようです。共同でインドネシアを対象に実証試験の候補地の特定を進めるようです。日本での建設も目標に入っているようです。インドネシア、日本などは、地温勾配が大きくクローズド方式の地熱発電の好条件だと想定しています。

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