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クローズドループ方式の地熱発電 (2)
〜 掘削技術の進展、同軸型熱交換器、導入に関する考察 〜

4. 日本でのクローズドループ方式の導入についての考察

以下では、日本にクローズドループ方式を導入を想定して、個人的な意見を含んだ考察を書きます。

エバー社の場合、学術的な会議での発表や、学術誌への複数の論文発表等を行なって、研究内容、事業の意図などを、ある程度明確に示しています。多くの研究者の注目を集め、異なる国の複数の研究者が、それらに対して異なる観点から計算機シミユレーション等を行たっり、学術誌などに発表し議論したりしています。これらの研究者の中にはエバー社となんらかの繋がりがある研究者もいるのかもしれません。また、当然ですが彼らのコア技術などは公開しないでしょう。重要なことは、多くの研究者に注目され、多くの観点から議論される点です。これは、いわゆるオープンイノベーション“的”なやり方です。一方で、日本にも、クローズドループ方式の地熱発電推進を掲げるスタートアップ企業はいくつか存在しているようです。新しいことを行うには、学術的な会議での発表や学術誌への活発な論文発表は必要で、何を行おうとしているかを示し、議論を喚起させることは重要だと思われます。日本のスタートアップ企業にもこのようなことを期待したいと思います。そうすることによって、十分な議論がなされ、学術的にも注目され、事業計画の推敲、練り上げ、洗練化に弾みがつくのではと思います。

資源エネルギー庁の地熱発電の振興についての“中間取りまとめ令和7年版“16を見ると、「日本は巨大な地熱エネルギーが未利用で眠っている。これをうまく利用することを考えよう。より大きな熱エネルギーをとり出す新しい地熱発電技術の開発が必要」という問題設定で話が進みます。新しい技術の開発にはスケールの大きな話を必要とするようです。この“中間取りまとめ”では、超臨界地熱発電、EGS発電、クローズドループ方式発電の3つの技術を、新しい地熱技術と定義し、これらの技術開発と、これらの技術に基づいた地熱発電施設の建設を推進して行くという案です。

この取りまとめ案では、2026年から2030年まで、基礎技術固め、実証実験、建設候補地の地質調査など、そして、2035年から2040年までに200MW程度の出力を持つ超臨界地熱発電施設を全国で4ヶ所、建設し合計800MWの出力の電力を生産し、また、出力20MW程度のEGS発電またはクローズドループ方式の地熱発電施設を日本全国30ヶ所で建設し、合計600MWの出力の電力を生産する計画です。さらに、最終段階として2040年から2050年までに200MW程度の出力を持つ超臨界地熱発電施設を全国で14ヶ所選定して建設し合計2.8GWの出力の電力を生産し、また、出力50MW程度のEGS発電またはクローズドループ方式の地熱発電施設を日本全国70ヶ所で建設し、合計3.5GWの出力の電力を生産する計画です。2050年までに新しく7.7GWの電力を生産する地熱発電施設の建設計画です。この計画は細かいことは示されておらず、大枠の案と理解されます。そしてこの案に沿って地熱発電事業を推進して行こうと提案しています。この計画案を図2にまとめます。

図2. 資源エネルギー庁、中間取りまとめ令和7年版 新しい地熱発電技術による電力生産計画案

この大枠の案は、かなり攻めた計画案になっており、それなりに多くの人材と多くの予算を必要とするような計画です。ここで示されている超臨界地熱発電とEGS発電について、個人的コメントを簡単に述べます。

超臨界地熱発電17は大出力が期待されていますが、まだ克服すべき技術課題が複数存在しているようです。超臨界地熱発電の基礎技術が確立するのはそれなりに時間が必要かと思います。実証用の発電施設建設をするのはその後になります。さらに、この発電形式を実行する場所は限られると思われます。ほぼ実現しているクローズドループ方式の技術と、今、基礎技術固めを行っている超臨界地熱発電方式では、現実にはタイムスケジュールは異なっているのではと思います。私個人の、素人の印象ですが、計画案のように超臨界地熱発電を推進させるには、かなりの加速が必要かと思います。

EGS(Enhanced or Engineering Geothermal System)発電は、地下の高温岩盤層にフラッキング(水圧破砕)により裂け目を作り、多量の水を注入し地下に人工的に高圧高温蓄熱層を作り出し地熱発電を行う技術です。少し大雑把に表現すると、温泉が湧き出していない場所に温泉地帯の地下のような状態を人工的に作り出し、地熱発電可能な状態にし、地熱発電を行う技術です。2023年にアメリカのネバダ州でFervo energy社がEGS発電により出力3.5MWの電力を生産することに成功し商業運転を開始しています18

ところでアメリカではシェールガス・石油採掘作業でフラッキングを行ったりします。2010年代にオクラホマ州ではM4〜5クラスの中規模の地震が激増しました19。その原因はフラッキングではないかとの話が発生し訴訟問題に発展しました。中程度地震は、テキサス西部、ニューメキシコ東部、カンザス南部、コロラドでも発生しました。また、カナダ20でも地震が観測されています。この騒動は、中国にも飛び火しています21

アメリカ政府の地質調査所は、フラッキングは微弱な地震を誘発する可能性はあるものの、多発する中規模の地震は、その大部分はフラッキング作業が原因ではないとアナウンスしています。そして、次のように説明しています。シエール石油・ガス採掘作業では多量の地下水が発生します。また掘削作業では多量の水を使います。さらにシェール石油精製過程で多量の廃液が発生します。多量の廃液や作業水を処理するために、石油ガス産業では廃液処理井を作り、多量の廃液や作業水を地中深く加圧注入し処理します。この廃液処理作業が、中規模クラスの地震の原因だと説明しています22。この後、廃液の地下への注入の際の、注入速度、注入圧力等に規制を設け、その後中程度の地震は減少していると報告されています23

地下資源採掘のフラッキング作業と廃液加圧注入作業は実際には作業そのものは似た作業だと思われます。注入圧力、注入作業の期間、注入する液体の量などで大きな違いがあるようです。特に、廃液注入作業は、長期間に及び、はるかに多量の液体を地下に注入するようです。また、廃液処理作業による誘発地震は地下の状態にも依存し、最初からある程度の圧力が加わっているような地層で、廃液を注入すると地層にさらに圧力が加わり、圧力がある臨界値を超えると中規模地震を誘発すると考察されています。全ての廃液処理井が問題を起こしているわけではなく、いくつかの廃液処理井が地震を誘発したと考えられています。また、資源採掘のためのフラッキングは、微弱な地震のみを誘発するわけでもなく、場合によって中規模の地震を引き起こす可能性があることを指摘する研究者もいるようです24

現在では、抑制した加圧注入では誘発地震は抑制されると考えられています。ところで、2017年に韓国の浦項でM5.5の地震が発生しました。これは地熱発電技術の研究開発が原因だと言われています25。研究開発計画がよく練られていなかったのかもしれません。

EGS発電はフラッキングを行ったり、注水を行ったりしますが、人間が感じる地震を発生させないやり方で、発電施設を建設するということになります。技術的には可能かもしれませんが、日本でのEGS発電方式の推進の際には、周辺地域住民との十分な合意、リスク管理、災害発生の際の対策、補償問題など、社会的ハードルは高くなりそうな予感はします。

以上、超臨界地熱発電とEGS発電について簡単な個人的コメントを述べました。この連載の文章の目的はクローズドループ方式についての紹介の文章なので、以下にクローズドループ方式の日本への導入について個人的な考察を書きます。

連載(1)で述べたように、クローズドループ方式の場合、大きな熱エネルギーをもつ地下の高温層から時間をかけて少しずつ熱エネルギーを取り出すことが長期的に地熱を安定的に利用するやり方で、一度に多量の熱エネルギーを取り出すと熱源の枯渇を引き起こします、ということを書いています。そして、この原因は地下の高温岩盤の熱伝導率や、熱を運ぶ流体のパイプとの接触面積に起因していると考えられます。一方、運営の計算機シミュレーションが比較的容易で、安定的に長期の運転予測が可能です。

クローズドループ方式は現時点で、すでに、ほぼ実現可能な技術と考えられます。仮に10MW程度のエバーループのような小規模発電施設を、日本全国で400カ所建設すると総出力4GWにはなります。原子炉4基ぶんの出力にはなります。意外とスケールの大きな話になります。人口5万人以下の市町村の数が日本には418ありますから、小規模の市町村に1施設程度建設するような勘定です。400カ所にクローズドループ方式の地熱発電施設を設置すると、技術の洗練化や、量産効果、つまり学習効果により1カ所あたりの建設コストは抑えられる事になります。

当然ですが、人口5万人以下の小規模市町村には、クローズドループ方式地熱発電には適していないところもあります。一方で、地温勾配の大きなところでは、さらに大きな出力は期待できますし、一つの小規模市町村に複数施設設置すると、小規模自治体では電力エネルギーの自給は可能になります。中規模、大規模都市にも適切な設置場所があれば設置すると、総出力はさらに稼げます。これらの話は妄想の話のようにも思われますが、21世紀中期〜後半までの時間を想定すると、意外と実現可能な話かもしれません。

1つの発電所の出力を10MW程度と想定しましたが、地中のより深いところで熱交換器を作ると、出力15MW程度は想定可能かもしれません。また、複数の発電施設の建設を進めると、技術の洗練と改善ににより、出力の増大も考えられるかもしれません。仮に平均出力を15MWだと想定すると日本全国の総出力は6GW程度になります。原子炉6基ぶんの出力にはなります。

カルフォルニアエネルギー委員会の報告書では、ガイザーズ地熱地帯でグリーンループを多数設置すると、20年後くらいに総出力100MWくらいになる可能性について言及していました。20年間で、グリーンループ100本設置するような計画を想定していると推察されます。日本でも、全国の産業施設2000カ所くらいの施設内に自給用の1MW程度の同軸型の熱井戸を設置すると、総出力2GWの電力エネルギーにはなります、というスケールの大きな勘定は紙の上ではできます。2GWだと原子炉2基ぶんの出力にはなります。エバーループのようなクローズドループ方式と合算すると、クローズドループ方式で総出力6GW〜8GW程度になるかもしれません。

電力技術者の中には、小出力の発電技術にはあまり興味を示さず否定的な人もいるようです。そして現在の地熱発電は一般的に出力が小さいことは現実です。しかしながら、程度にもよりますが、使って問題が少ない技術の場合、積極的に利用しましょうという立場で考えると、出力の小さな電源を多数設置し総出力を稼ぐことも現実解だと思われます。

幸いにして、クローズドループ方式の地熱発電は、他の再生可能エネルギーのような不安定な出力でもありません。メガソーラ発電施設のように大きな敷地面積を占める訳ではありません。地表に建設する発電施設部分は小規模火力発電所、あるいは、さらに一回り小型の発電施設です。そして、この新しい形式の小出力の発電施設をたくさん設置すること自体は技術者側の課題というより「社会の側の課題」と考えられます。

2026年の現在、エバーループは最初の商業施設が建設途中で、クローズドループ方式の問題点、改良点が明確になって来た段階ではないと思います。仮に、日本でクローズドループ方式の建設が幾つか推進され、問題点などが洗い出され、改良が施され、ある程度の技術的課題は解消されたとします。次の段階として、今度はこの小規模分散電源の数をいかに増やしていくかが課題になります。そうなると、これは「技術的課題」ではなく「社会的課題」になってきます。地方自治体が推進する将来のインフラ事業だと考えた方が良いと思います。設置や運営は、自治体、私企業、第3セクターなどが担う、上下水道、道路の建設などと同じように考えた方が良いと思います。つまり地域の生活に必要な電力を生産する施設です。

クローズドループ方式の場合、出力が小さいので、小規模の市町村が、ある程度の自給のために運営管理に積極的に関与することは、都合が良いのではと考えます。風力発電施設の場合、自治体が主導して設置の推進などを行なったりしています。無秩序な開発ではなく、長い時間をかけた計画的な推進が可能になるのではと考えます。そして、総務省などの支援もあっても良いのではと思います。

連載(1)で述べたように、発電施設設置決定までのリードタイムは慎重に十分に長くとる必要はあると考えます。きちんと地下の状態を調査し、十分な計算機シミュレーションを行う必要性はあると思います。最終的には、新しい技術を社会に導入するときの「社会的課題」を解決したりすることを、うまく実行できるかどうか、地方自治に関係している人たちが、どの程度、主体的積極的に関与するのかに依存しているのではと思います。

ところで、現在の日本全体の総発電電力または総消費電力は、すごく大雑把に平均して100GW程度です。日本全体の発電と消費の総電力はこの15年間、緩やかな減少傾向にあります。その原因は、省エネ効果、産業活動の縮小、人口減少によると考えられています。今後、産業活動の再振興などがあると、総電力は増大する可能性はあるかもしれません。産業活動の再振興と、省エネ効果、人口減少が相殺し、21世紀中期から後期の日本の総電力も100GWと想定し、クローズドループ方式の地熱発電で6GWの電力生産を想定すると、6%程度の電力をクローズドループ方式で賄うということになります。現在のところ地熱発電の総電力中の割合は0,3%程度なので、地熱発電による電力は増大します。そしてその分の温室効果ガスの排出は抑制されるはずだと思います。

クローズドループ方式は実際に始まったばかりなので、何らかの新しい問題を引き起こす可能性もあるかもしれません。現在の時点で、色々なことを考察することは早急な話かもしれません。しかしながら、ゲレツリート施設の商業展開を契機として、この地熱発電方式の今後の展開について多くの人が「社会的課題」として見ておくことは重要なことかもしれません。以上は、個人的な考察です。読者は妄想的な話かと思われたかもしれません。この連載の文章がもしエバー社の宣伝のように感じた場合は、それは意図したことではありません。

5. まとめ

連載の(2)では、エバー社の岩盤掘削技術について簡単に示しました。岩盤掘削作業のコストは、そのまま発電コストに影響します。岩盤掘削技術の高速化、低コスト化について紹介しました。クローズドループ方式のもう一つの形態の坑井内同軸熱交換器(Downhole coaxial heat exchanger: DCHE)の技術について、インターネットで閲覧可能な情報を整理してみました。キラウエアの実験、ジャパン・ニューエナジー株式会社、アメリカのGFE社、イギリスのセラフィエナジー社の活動について紹介しました。

地熱エネルギーは日本国内で自給可能なエネルギーです。クローズドループ方式は、蒸気や熱水が湧き出るような場所ではなくても設置可能です。日本は地温勾配が大きいので、日本にとっては都合の良い地熱エネルギーの獲得方法だと思われます。1施設あたりの出力は小さいので、施設の数を増やして、総出力を稼ぐことになります。施設の数を増やすと建設費を抑えることができます。幸にして太陽光や風力のように大きな面積を占める目立つ施設ではなく、比較的小さな施設面積で、安定して電力を発生させることが可能です。どうやってこれを増やしていくかは「社会的課題」だと思います。

電力ネットワークの構成要素の一つでありながら地味な存在の地熱発電技術に関連して近年の新しい技術の進展を調べ紹介しました。また、個人的な考察を加えました。 ご精読ありがとうございます。

参考にした記事と文献

[1] エバーディープの紹介サイト。

[2] K. Morita, W. S. Bollmeier II, H. Mizogami, Trans. Geothermal Res. Council Trans. 1992; 16, 9–16. 

[3] 盛田耕二、溝上芳史、W. S. Bollmeier II, (1992) 地熱学会誌,Vol.29,No.1,52-69.

[4] JNEC社のウェブサイサイト。

[5] Think GeoEnergy, 11 Nov. 2016. 

[6] JNEC社による水分発電所完成のニュース。

[7] 京都大学広報。

[8] 2017年度 NEDO ベンチャー企業等による新エネルギー技術革新支援事業。

[9] GFE社のウェブサイト。

[10] Businesswire May 8, 2025 9:00 AM Eastern Daylight Timeガイザーズ実験の記事。

[11] カルフォルニア州エネルギー委員会によるガイザーズ発電所での実証実験の報告書。

[12] 日本経済新聞 2025年9月9日 東洋エンジニアリングとGFE社の提携契約。

[13] セラフィエナジー社のウェブサイト。

[14] KM-8 プロジェクト Third Energy による報告書  Aug. 15 2025。

  セラフィエナジー社によるKM-8プロジェクトの記事。

  Energy Voice, 12 July 2023 の記事。

  Think GeoEnergy, 31 Aug. 2023 の記事。

[15] セラフィエナジー社とスカンソープ総合病院との契約。

[16] 資源エネルギー庁、次世代型地熱推進官民協議会中間取りまとめ令和7年10月31日。 

  日本経済新聞 2025年9月26日。

  次世代型地熱の推進に向けて令和7年4月14日。

  第3回 次世代型地熱推進官民協議会の議事を踏まえた第4回資料における対応について。 

  第4次世代型地熱推進官民協議会令和7年10月31日。

[17] 超臨界発電技術開発について、新エネルギー産業技術総合開発機構、2025年4月。

[18] Farvo energy社、Press Release , July 18 2023.

[19] National Geographic、オクラホマ州で人為的な地震の増加、2016.03.31.

  APF BB News、「水圧破砕法」よく使われる米オクラホマ州でM5.6の地震、2016.09.04.

[20] カナダ政府広報 Jan. 10 2019.

  Stanford report, March 23 2023.

[21] PreventionWeb, 5 April 2019, China: Damaging Sichuan earthquakes linked to fracking operations. 

  Reuters China rejects claims fracking caused Sichuan quake – state media, 2019.06.19.

  Geophysical Research Letters 07 April 2023.

[22] USGS, Frequently asked questions; Oklahoma has had a surge of earthquakes since 2009. Are they due to fracking?

  USGS, Frequently asked questions;  Does fracking cause earthquakes? Updated Date: September 10, 2024.

  Earthquake Radar: Fracking and Earthquakes: What the Science Actually Says, March 13, 2026.

[23] Zhen Hong, Hernan A. Moreno, and Yang Hong; Geosciences 20188(12), 436.

  U. S. Energy Information Administration, Today in Energy, June 22, 2017.

  楠瀬勤一郎、地震ジャーナル、2017年 6月、p23.

[24] X. Bao and D. W. Eaton, Science, 1406-1409, Vo.354, 17 Nov. 2016.

[25] 朝日新聞、地震の原因、地熱発電の開発だった 韓国政府が謝罪 2019年3月21日。

  APF BB NEWS、 韓国地震、地熱発電での高圧注水が原因か?

  

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