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LLP会計ものがたり
〜 税務書類の迷宮とAIの知恵比べ 〜

5. A Iは便利、でも最後は人の出番

 ここまで、複数のAIを相手にかなりの時間と気力を投入してきた。今にして思えば、これは「ちょっと相談してみよう」というより、半ば“静かな長期戦”であった。当初から、AIに聞くときにはある種の作法があることは承知していた。つまり、ふわっとした問いには、ふわっとした答えが返ってきやすく、具体的に聞けば具体的に返ってくる、というあの性質である。そこでこちらも、それなりに質問の角を立て、条件をそろえ、できるだけ個別具体的に問いかけたつもりだった。実際、根拠法令の出典のような「どこに書いてあるか」という話については、案外ちゃんと同じ場所にたどり着いていたので、そのあたりは頼もしく見えた。ところが、問題はそこから先だった。条文を読んで「で、結局どう解釈するのですか」という段に入った途端、AIたちは急にそれぞれの流派を名乗り始めたかのように、見事なくらい違う見解を披露してくれたのである。こちらが詰めれば詰めるほど、新しい選択肢まで増えてくる始末で、最後には相談というより、会計版の即興ディベート大会を観戦している気分になった。便利な相談相手であることは確かだが、最終判断まで代行してくれるわけではない——この、ごく当たり前だが重い事実を、今回あらためて骨身にしみて感じた。

 しかし、よくよく考えてみると、AIが拠り所にしているのは、結局のところ世の中に流通しているネット情報であろう。数学や物理のように、条件を入れればかなり筋の通った答えにたどり着きやすい分野ならともかく、今回のように情報自体が少ない、解釈に幅がある、あるいは慣習がものを言う領域になると、話は一気にややこしくなる。法令解釈というのは、条文だけで将棋の終盤のようにピシッと決まることもあれば、実務の空気を読まないと着地しないこともある。その“空気”の部分が、どうやらAIにはまだ少し苦手らしい。目の前の質問にはもっともらしく答えてくれるのだが、その答えを少し先まで延ばしたときに何が起きるか、あるいは別の書類や別の論点にどう響くか、そこまで先回りして見通すのはあまり得意ではないように見えた。或いは、今回のAI-AとAI-Bの食い違いは、世の中に出回っている一次情報や実務慣行そのものが、まだ十分に一枚岩ではないことの映し鏡なのかもしれない。そう考えると、AIが混乱していたというより、むしろこちらが現実の複雑さを正面から見せられた、と言うべきなのかもしれない。

 振り返ってみると、税理士ではなくAIを頼ったのは、たしかに費用面の理由もあったのだが、それ以上に大きかったのは「どれだけしつこく聞いても気まずくならない」という、あの圧倒的な気楽さだった気がする。生身の相手には少しためらうような、まとまりきっていない質問でも、とりあえず投げてみられる。言い換えれば、AIは“何度でも聞き返せる壁打ち相手”として非常に優秀なのである。しかも、こちらが少々見当違いなことを言っても、露骨に眉をひそめたりはしない。恥をかかずに試行錯誤できる相手、というのは思った以上にありがたい。ただその一方で、細かなニュアンスや、こちらの頭の中にしかまだ存在していない微妙な違和感までは、やはりなかなか汲み取ってくれない。そこは、文脈ごと受け止めてくれる人間の強みがはっきり出るところだろう。相性のよい税理士の方と向かい合って、「いや、私が引っかかっているのはそこではなくてですね」と身振り手振りつきで相談できていたら、もっと早く、もっと穏当な結論に着けた可能性はある。AIの進出が目覚ましい今だからこそ、士業の価値は薄れるどころか、むしろ“最後の一押しを決める役割”として際立ってくるのかもしれない。便利な時代になったが、最後の詰めはまだ人間の持ち場らしい。

6.まとめ:今回の検討で得たもの

 LLPの税務処理で必要になる「所得計算書」は、見た目こそ書類らしく整っているのに、読む側にとってはなかなかの曲者である。ぱっと見てすぐ腑に落ちる種類の書類ではなく、眺めれば眺めるほど「いや待てよ」と腕組みしたくなる。そこで今回、妥当と思われる書き方を複数のAIに尋ねながら、自分なりにあれこれ検討してみたわけだが、その過程で見えてきたのは、会計上の慣例と税務上の慣例は、どうやらいつも仲良く肩を並べて歩いているわけではない、という少々世知辛い現実だった。しかも、解釈の話になると、AI同士ですら平然と正反対の答えを返してくる。こちらとしては「せめて相談相手どうしで示し合わせておいてほしい」と言いたくもなるが、そう都合よくはいかないらしい。最終的には、税務上の立場をより重視し、論理的にも実務的にも筋が通ると判断した方式を採用して提出し、現時点では特段の問題は生じていない。結果だけ見れば静かな着地である。

 今回の一連の検討を通じて痛感したのは、現在のAIには便利さと限界が、実にきれいに同居しているということである。情報を集め、論点を広げ、壁打ち相手になってくれる力はたしかに大きい。しかし、答えが割れる場面で最後にハンドルを握るのは、やはり使う側の人間である。必要なところでは士業の知見も借りる、AIには遠慮なく何度でも尋ねる、そのうえで最後は自分で考える——結局のところ、その組み合わせがいちばん現実的なのだろう。現在のA Iの限界、自らの情報リテラシーや士業の重要性も実感として認識することが出来た。便利な道具が増えた時代になっても、最後に頭を抱える役が人間のままだというのは、少々大変ではあるが、案外それで世の中のつじつまは合っているのかもしれない。今回の検討から得た最大の教訓は、まさにその一点に尽きる。

(完)奥村 元

  最後に、本稿の貸借対照表の中で用いた数字自体は、架空のものである事を申し添える。

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